Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 朝食後、二階にある寝室の出窓から外を眺めながら、オリヴィアは思う。
 オリヴィアはここが好きだ。
 エドモンドに惹かれるのと同じくらい、ノースウッドにも惹かれる。いや、むしろ、ノースウッドはエドモンドそのものだった。厳しくて素っ気無くて、大きくて素朴で、でも美しいもの。

 ここで彼と生きていけたらいい……。
 いつか、彼の家族になって。

 彼そっくりの子供たちが、この屋敷で笑い声を上げて駆け回っているといい。そこに、オリヴィアも一緒にいられたら嬉しい……。
 オリヴィアはいつからか、そう強く願っていた。

 結婚前の呑気なオリヴィアでは、考えもつかなかったことだ。
 父を喜ばせたくて、結婚に同意しただけのあの頃。

 ただ平和に、いくぶんかの愛情に恵まれて、楽しく暮らせればいいと思っていたあの頃。
 しかし、いつからか、オリヴィアは変わった。

 無邪気な金持ちの小娘はどこかに行ってしまって、かわりに、振り向いてくれない夫に恋をする田舎の伯爵夫人がいる。オリヴィアは感傷的な人間ではなかったし、今でも希望は失っていないが、それでも切ない思いをうんと学んだ。
 もし願いが叶わず、エドモンドがオリヴィアを実家に帰してしまっても……オリヴィアはきっとノースウッドでの日々を後悔しない。

 悲しむことはあっても、懐かしむことになっても、後悔だけはしないと確信がある。


 ──こんな想いは知らなかった。
 でも、知ってしまったからには、もう引き返せない。