Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

『住めば都』とはよく言ったものだ。最初は巨大な納屋かと勘違いしたこのバレット邸も、今ではすっかりオリヴィアの心地いい住まいだ。

 特に、何でもかんでも大造りなのがいい。

 オリヴィアの実家は都会風の豪華な建物で、あちこちに高級な家具や繊細な装飾品が配置されていたから、いつも何かを壊してしまわないように気を付けながら動かなければならなかった。
 特に小さい頃……あれに触ってはいけません、これも触ってはいけません、あちらから離れていなさいと雁字搦めだったのを、オリヴィアは苦く思い出す。

 しかし、バレット邸にそんな物はない。

 家具といえば田舎風の頑丈な造りで統一されているし、サロンも居間も食堂も寝室も、広いばかりで余計な装飾はほとんどない。たとえば、子供がすぐ壊してしまいそうなポーセリンの犬とか、クリスタルの大皿とか、蚊のように脚の細い椅子とか。

 唯一価値のありそうな物といえば年代ものの絵画だったが、バレット邸は中世の騎士の城ほどの高さがある。子供どころか、大人だって梯子に乗らなければ手の届かないような場所に飾ってあるので、害はなさそうだった。

 そして庭から広がる見渡すかぎりの自然。

 気まぐれな天気、湿った土、痩せた森……でも、力強い大地。