「兄さんはずっと『バレット家の呪い』を恐れてた……。それは知ってるよね?」
「私は、ノースウッドで起こったほとんど全てのことを知っていますわ」
「だから兄さんは、どうしても結婚する必要ができたとき、もう悲劇が起こらないようにしたいと思っていたんだ。まったく心をそそられない、醜い娘となら結婚してもいいってね」
ローナンはここで間を置いた。
なにかマーガレットが質問してくるかと思ったが、それはなかったので、ローナンは続ける。
「そんな訳で、たいして美しくない成金の娘が、たいした持参金付きで伯爵家に来ることになった。兄さんは中央まで行ってその嫁と持参金を貰って帰ってきた。ところが蓋を開けてみたら……嫁はものすごい美少女で、優しくて明るくて可愛くて、兄さんに好かれようと必死に頑張ってるんだよ」
「そして……ノースウッド伯爵は禁欲を強いられて、苦しんでいらっしゃるのね」
「まあ、そんなところかな」
ローナンは肩をすくめた。
「実際のところ、最初のうちは気の無いふりをして逃げてたんだ。離婚するとまで言って。ところが数日前なんだけど、兄さんは彼女と二人っきりで森にハーブ狩りに出掛けて……それから帰ってきて以来、もう目も当てられない状態なんだ」
「あら、あら。どういう状態なのかしら?」
「亡霊みたいな目をしていつも彼女の後ろ姿を追ってる。彼女に近付く男がいたら絞め殺しそうな目でね。実際、僕も何度か危なかったし。でも、いざ彼女が振り向くとそっぽを向く」
「面白くなってきましたわね」
「見てる分には、確かに面白いよ。立場を代わりたいとは思わないけどね」
「それであなたは、困った伯爵と伯爵夫人のために、ひと肌脱ぎたいという訳かしら」
「マーガレット、あなたは話が早くて本当に助かる」
ローナンは組んでいた腕をほどいて前へ進み出ると、うやうやしくマーガレットの手を取って、その甲に口付けをするふりをした。
昔日はさぞ美しかったのだろうと思われる顔を満足そうに崩したマーガレットは、つんと鼻をそびやかし、「高くつきますわよ」とささやいた。
「私は、ノースウッドで起こったほとんど全てのことを知っていますわ」
「だから兄さんは、どうしても結婚する必要ができたとき、もう悲劇が起こらないようにしたいと思っていたんだ。まったく心をそそられない、醜い娘となら結婚してもいいってね」
ローナンはここで間を置いた。
なにかマーガレットが質問してくるかと思ったが、それはなかったので、ローナンは続ける。
「そんな訳で、たいして美しくない成金の娘が、たいした持参金付きで伯爵家に来ることになった。兄さんは中央まで行ってその嫁と持参金を貰って帰ってきた。ところが蓋を開けてみたら……嫁はものすごい美少女で、優しくて明るくて可愛くて、兄さんに好かれようと必死に頑張ってるんだよ」
「そして……ノースウッド伯爵は禁欲を強いられて、苦しんでいらっしゃるのね」
「まあ、そんなところかな」
ローナンは肩をすくめた。
「実際のところ、最初のうちは気の無いふりをして逃げてたんだ。離婚するとまで言って。ところが数日前なんだけど、兄さんは彼女と二人っきりで森にハーブ狩りに出掛けて……それから帰ってきて以来、もう目も当てられない状態なんだ」
「あら、あら。どういう状態なのかしら?」
「亡霊みたいな目をしていつも彼女の後ろ姿を追ってる。彼女に近付く男がいたら絞め殺しそうな目でね。実際、僕も何度か危なかったし。でも、いざ彼女が振り向くとそっぽを向く」
「面白くなってきましたわね」
「見てる分には、確かに面白いよ。立場を代わりたいとは思わないけどね」
「それであなたは、困った伯爵と伯爵夫人のために、ひと肌脱ぎたいという訳かしら」
「マーガレット、あなたは話が早くて本当に助かる」
ローナンは組んでいた腕をほどいて前へ進み出ると、うやうやしくマーガレットの手を取って、その甲に口付けをするふりをした。
昔日はさぞ美しかったのだろうと思われる顔を満足そうに崩したマーガレットは、つんと鼻をそびやかし、「高くつきますわよ」とささやいた。


