告白しよう。
令嬢、オリヴィア・リッチモンドはスプーンより重いものを持ったことがない。
「私、オリヴィア・ジェーン・リッチモンドは……」
しかし今から彼女の夫になる男──ノースウッド伯爵エドモンド・バレット卿は、見るからに長身で逞しい男で、おそらく元は茶色なのだろう豊かな髪は、日焼けにより濃い金髪のように見えた。
彼の瞳は深い緑で、この世の機微をすべて見逃すまいと鋭く輝いている。
「汝、エドモンド・バレットを夫とし……」
この台詞が終われば。
正確には、名前を入れ替えた同じ台詞を相手も言い終えれば、オリヴィアはもう今までの気ままな男爵令嬢オリヴィアではなくなる。人妻になるのだ。それも伯爵夫人。
オリヴィアの声は、誓いの言葉が進むにつれ緊張でだんだんと弱々しくなっていった。
だって、キスをするのよ。
生まれてはじめてのキスを。
「……病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで、共に生きることを誓います」


