ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う


「今日からわたしは北の修道院を楽園にすることにしたの」

 北の修道院。名前を聞いただけで誰もが震える場所だ。
 北は寒い。とにかく寒い。その上、規律も厳しいらしい。
 親を失った子どもから、親に捨てられた令嬢まで、暮らす人間は様々だ。

「他にもいい場所があったのでは? 別荘地に逃げるとか……」
「修道院に入れられるくらいしないと、あの男は執念深く追ってくるわ」

 イーサン殿下は昔からわたしのことが嫌いなのは知っている。
 王太子妃の補佐にするという提案も、わたしへの嫌がらせに思いついたのだろう。
 修道院に入ったと知れば、イーサン殿下も満足するはず。令嬢の墓場なんて言われている場所だもの。
 わたしは修道院に運び込む荷物を見て頷いた。
 準備は完璧よ。
 特注品のベッドも持ち込んだのだ。完璧ではないわけがない。

「ようこそお越しくださいました。ミランダ・オロレイン公爵令嬢」
「今日からよろしくお願いしますね」
「こ、こちらの荷物は?」
「わたしの荷物です。これが入る陽当たりのいい部屋をよろしくお願いしますね」

 わたしはにこりと笑った。
 こういうのは最初が肝心よ。有無は言わせない。
 だって、わたしはここに反省しに来たわけではないのだから。
 執事がにこにこと笑顔で金貨がたんまり入った袋を渡す。
 賄賂。これが一番だということは、いつもグータラしているわたしにもわかる。
 幸い、オロレインは裕福で金はばらまくほどあった。
 わたしが快適に暮らすための賄賂くらいいくらでも用意するわ。……、まあ、もちろん後々回収させてもらうつもりだけど。
 修道女はべたついた笑みを浮かべる。

「そういえば、とても陽当たりがよくて広いお部屋が一つあいておりました。そちらをミランダ様にご用意しましょう」
「あら。助かるわ」
「ご案内します」