ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う


 オルトは短く言うと、イーサン殿下を軽々と持ち上げる。そして、部屋の端へと放り投げた。数名の兵士たちが抱き留めなければ、家具にぶつかっていただろう。

「オルト、だめよ。家具は全部お気に入りなの。壊れたら困るわ」

 オルトはわずかに眉尻を下げた。
 もし、彼に耳があったら、しょんぼりと下がっていただろう。

「バ、バケモノ……!」

 イーサン殿下が下半身を震わせながら叫んだ。
 オルトはその言葉に不服そうに眉をひそめる。

「バケモノじゃない」

 オルトは大股でイーサン殿下の元へと歩いて行く。
 イーサン殿下と彼を支えていた兵士たちは慌てて数歩後退った。

「オルトだ。ミランダがくれた」

 オルトはジッとイーサン殿下を見つめる。
 力の差は歴然。それはイーサンもわかっているのだろう。何歩か後ろに下がると、オルトを通り超してわたしを指差す。

「ミ、ミランダ! 用心棒を雇ったからって、いい気になるなよ!?」
「いい気だなんて。とんでもない。でも、修道士たちにも迷惑になりますから、さっさと出て行ってくださいね」
「馬鹿を言うな! おまえは私と一緒に王宮に戻るんだ!」
「いやよ。ようやく落ち着いたもの。……オルト」

 オルトの名前を呼ぶと、オルトは心得たようにイーサン殿下の腕を掴む。