婚約者というだけで、イーサン殿下には興味はない。わたしの愛はすべて布団に向かっているのだから。
愛人がイーサン殿下の相手をしてくれて、跡継ぎも産んでくれるなら、わたしの仕事は公務だけになる。
それなら、悪くないわ。
「いいや、私はエミリアに王太子妃になってもらうつもりだ!」
「でも、男爵家のご令嬢でしょう? 今からでは難しいのではないかしら?」
公爵家に生まれた令嬢のわたしだって、王太子妃になる準備は大変だったのよ。今までのほほんと生きてきた令嬢が、今から王太子妃になるための教育を受けるって大変ではないかしら?
高位貴族の令嬢なら、今まで受けた教育にプラスすればいいかもしれない。けれど、エミリアと呼ばれた彼女、そんなに高度な教育を受けたとは思えないのよね。
「君はなんて失礼な女なんだ!」
「それはこちらのセリフよ。十年来の婚約者を呼び出して、『彼女と結婚することにしたから、君は王太子妃になるのを諦めてくれ』って一方的に言うほうが失礼だわ」
この十年の苦労をたった一言で流すなんて! わたしは憤慨した。
王太子妃になるための教育は、想像以上に大変だったのよ。
それでも挫けずに頑張ったのには、訳がある。――王太子妃になって怠惰な生活を送ること。
わたしはそれだけを目標に、王太子妃の教育を受け続けてきた。王太子妃になったあと、そして、ゆくゆくは王妃となったあとも楽ができるように、ありとあらゆる準備をしてきたの。
わたしはゴロゴロするのが大好き。
そう、そのためならば、わたしはどんな労力も厭わないよ!
たとえそれが王太子妃としての厳しい修行だとしても。その先に怠惰な生活があるのならばね。
私はにこりと笑って見せた。
「もう一度だけ言うわね。愛人だったら受け入れますわ」
一人でも二人でも三人でも。
結婚は契約。愛を求めたことはないし、イーサン殿下と恋愛をしようと思ったことはない。
彼が恋愛をしたいなら止めるつもりはない。
けれど、十年の努力を踏みにじるのは許せないわ!
わたしは王太子妃になったときに、最低限の公務以外がゴロゴロとできるように準備をしてきたの。
十年かけて作った最高のベッドを、壊されそうになっている気分よ。



