ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う


 わたしが王都を去って、まだ一か月。
 いつかこの日が来ることは予測していた。
 一台の馬車の周りを兵が厳重に囲んでいる。

「オルト、あれは放っておいていいわ。相手にしていると時間を無駄にするから」

 わたしはそれだけ言うと、もう一度ベッドの上に転がった。
 ああ、眠りすぎて背中が痛い。
 この痛みがまた最高なのよ。
 オルトは何度か窓の外を気にしていたけれど、すぐに興味を失った。
 馬の蹄の音が遠くに、聞こえる。それすらもわたしには子守歌のようだ。
 うとうととしていると、足音が遠くから聞こえて来た。
 そして、大きな音を立てて、扉が開いた。

「ミランダ・オロレイン! どういうつもりだ!」

 怒号が部屋中に響いた。

「うるさいわ。少しは静かにできないのかしら?」

 ベッドから起き上がる気にもならず、わたしはわずかに顔を上げただけで対応した。
 それが、イーサン殿下の逆鱗に触れたのだろう。イーサン殿下は大股でまっすぐわたしの元まで歩くと、わたしの腕を掴んだ。

「婚約を破棄した相手に、なんのご用かしら?」
「言ったはずだ。君にはエミリアの補佐をしてもらうと」
「申し訳ございません。ご覧のとおり、婚約を破棄されたことを父に怒られ、修道院に入れられましたの」

 イーサン殿下が顔を歪める。
 正確には自ら進んで修道院に来たのだけれど、その辺はどうでもいい。

「しかも、王太子妃の周りで働く予定だった者たちが一斉に辞めた! 君の差し金だろう!?」
「あらあら。一介の令嬢にそんな力はありませんわよ」