ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う


「ねえ、あなた名前なんていうの?」
「なまえ?」
「そう、名前。わたしはミランダ」
「ミラ……ンダ」

 彼は何度もわたしの名前を言った。

「そう、ミランダ。あなたは?」
「……モノ」

 彼は小さな声で言った。
 聞こえなくて首を傾げる。

「聞こえなかった。もう一回」
「……バケモノ」
「それは……。多分、名前ではないわね」

 バケモノ。そう呼ばれていたのだろう。
 名前もつけてもらえなかったのかしら。
 彼は難しそうに眉を寄せた。

「さすがにバケモノなんて呼びたくないし……」

 名前を呼ばないで「殿下」って呼ぼうかしら? 噂を信じるならば、彼は王族の一人だろうから。
 でも、一緒に暮らすのにそれは味気ないわね。

「なまえ、ほしい」
「わたしがつけてあげる。最初のプレゼントよ」

 わたしは彼の頭をくしゃくしゃと撫でた。見た目よりも柔らかい黒髪だ。
 彼は目を細め、顔を歪めながらもわたしの手を受け入れた。
 飼っていた犬に似ている。三年前に年老いて亡くなってしまった。

「オルト」