〇祭和為(まつりわため)の家、和為の部屋。
勉強用に出した小さな机の上に参考書とノートが置かれていて、室内にいるのは埜永と和為のふたり。
第2話の体育のシーンでも登場した眼鏡をかけた真面目そうな見た目の和為が、驚いた表情をしている。
和為「告白に失敗したって、埜永が?」
埜永が無言でコクリと頷く。
和為「それって……フラれたってこと?」
埜永「フラれる以前の問題、俺が好きなのはミイだって勘違いされてる」
和為「埜永が好きなのは広辺さんだって言われたら学園の誰もが納得するよね、埜永と広辺さんならお似合いだから」
埜永「違う、俺が好きなのは美津理」
和為は納得のいっていない表情をしている。
和為「今まで理由を聞いたことなかったけど、志尾さんのどこが好きなの? こう言っちゃ悪いけど『普通』の子だよね」
埜永「美津理は俺の好きなものを貶したり笑ったりしないし、むしろ一緒に楽しんでくれるから」
あー、と今度は納得しているような表情になった和為。
和為「高校で埜永と知り合って、戦隊ヒーローオタクだって知って驚いたもんなぁ」
埜永「年齢が上がるにつれて、戦隊ヒーローが好きだって言うとだいたい引くんだ。女子なんて、勝手に俺のイメージを作ったりして、ギャップにガッカリされる」
和為「そのガッカリされる気持ちは僕にも分かるよ。僕なんて美少女騎士シリーズオタクだからね」
埜永「俺は美少女騎士シリーズもリスペクトしてるぞ。戦隊ヒーローの次の番組だったからそのまま見てたけど、美少女騎士ノイコミンの演出は特に凄かった」
ハハハ、と和為が楽しそうに笑う。
和為「思い出した。埜永が僕に初めて話しかけてきたのは、僕の定期入れについてたノイコミンのマスコットを見たからだった」
埜永「美津理は今でも、俺の好きっていう気持ちを否定しないで大切にしてくれるんだ」
和為「そんな風に好きな気持ちを尊重してくれる志尾さんに、勘違いされてるってどういうこと?」
埜永が小さくため息をついた。
埜永「焦ってたんだよ。朔弥が進学先決まったら美津理に告白するってミイから聞いて……。だから告白文を考えようとメッセージアプリに書いてたら、途中で送信してた」
和為「その文章が勘違いされるような内容だったの? なんて書いたのさ」
埜永「……『みい好きだ』って……」
和為がかなり驚いた表情になっている。
和為「ミイって、広辺さんのことだよね。そりゃ勘違いするでしょ。なんでそんなこと書いたの?」
埜永「ミイと朔弥が引越してくるまでは……美津理のことずっと『みい』って呼んでた。ミイがミイって呼んでって言うから、美津理は譲ったんだ。でも俺は、ずっとみいって呼びたくて無意識に書いてた」
和為「これからどうすんの」
埜永「俺の気持ちが伝わるまで、戦い続ける」
和為「めっちゃヒーローっぽい」
決意したような表情の埜永に、和為が苦笑いする。
○社会科資料室(休み時間)
ガラ、と美津理が扉を開けると、資料集を棚に戻していた埜永が振り返って目を見開いた。
美津理「手伝いにきたよ」
埜永「え、なんで?」
美津理「埜永と同じクラスの、えーと、祭くん、だったかな名前、に頼まれて」
埜永「和為に……」
埜永は、心の中で神様のような神々しい存在のデフォルメになっている和為に感謝する。
くしゅん、と美津理がクシャミをしたので、埜永は自分が着ていたジャージの上を脱いで制服の夏服姿の美津理に貸した。
美津理「大きいね」
ぶかぶかな埜永の服を着て困ったように笑う美津理を見て、埜永の胸がキュンと鳴る。
思わず埜永は、美津理の身体を抱き寄せ腕の中に閉じ込めていた。
美津理「埜永!?」
埜永「可愛すぎ」
混乱した美津理の脳内に、!マークと?マークがたくさん飛んでいる。
美津理(これも告白の練習!?!?)
廊下で生徒たちが話す声が聞こえて、美津理はハッと我に返った。
美津理「そろそろ行かないと、埜永、離れて」
埜永「今日一緒に帰ろ。俺の部活終わるまで待っててよ。じゃないと離さない」
美津理「わ、わかった。待ってるから離して」
埜永「あと三秒だけ」
美津理「三、二、一、終わり!」
顔を赤くしながら、美津理は社会科資料室を飛び出していった。

