〇美津理の家の前(第2話ラストの翌朝)
少し慌てた様子で家を出てくる制服姿の美津理。
美津理「おはよう。今日も遅くなってごめん……って、朔弥くんだけ?」
昨日と違い、埜永とミイの姿はなかった。
朔弥「埜永はサッカー部のミーティングがあるの忘れてたって言って先に行った」
美津理「ミイは?」
朔弥「それ聞いて、ミイも埜永と一緒に早く出たよ」
美津理(一緒に……ってことは、ミイも埜永のこと好ましく想っていたりするのかなぁ)
嬉しそうに微笑む美津理を見て、朔弥が優しい笑みを向けた。
美津理と朔弥は駅に向かって並んで歩き始める。
朔弥「もしかしたらミイは、俺に気をつかってくれたのかもしれないね」
美津理「ん、朔弥くん何か言った?」
朔弥「何でもないよ、あ、そうだ。美津理ちゃん、今度一緒に映画観に行かない? 前に観に行きたいって言ってたの始まるでしょ」
美津理「観に行きたいけど……、朔弥くん受験勉強で忙しいんじゃない?」
朔弥「たまには息抜きもしないとね」
美津理「そういうことなら……あ、そうだ」
美津理は何か閃いたような表情になった。
○学校校舎内の廊下(昼休み)
手作りらしきお菓子の包みを女子から差し出されている埜永。
埜永「いらない」
断っている埜永の表情は冷たい。
美津理は少し離れた所から偶然その現場を見かけていた。
美津理(女子の前の埜永は、家の時と別人みたいなんだよね……)
〇美津理の部屋(夜)
埜永「映画?」
美津理の勉強机の椅子の背もたれを前にして跨って座った埜永が、目を輝かせている。
褒められた大型犬のような埜永の様子に、(可愛い……)と心の中で呟く美津理。
美津理は自分のベッドに腰かけている。
埜永「いいよ、なに観る? 前に美津理が観たいって言ってたのにしようか。次の日曜の午後なら、部活ないから行ける。その日で良ければ俺チケット予約するよ」
美津理「次の日曜の午後ね、わかった。チケットは朔弥くんが予約してくれるって言ってたから大丈夫」
嬉しそうに目を輝かせていた埜永から一気に表情が消える。
埜永「朔弥が? 三人で行くってこと?」
美津理「ううん、ミイも一緒に四人で」
埜永「四人で……」
埜永が大きなため息をついたため、美津理は心配そうな表情になる。
美津理「ごめん、余計なお世話だったかな。埜永はしばらく予定が空いてないって言って、三人で行ってこようか?」
埜永「俺も行く。でないとミイも行かないって言いそうだから」
美津理「そういえば前に買い物へ行く約束していた時に、そんなことあったね」
美津理(埜永が行かないならミイも行かないって、それってやっぱりミイも埜永のことが好きな気がするけどなぁ……)
美津理「埜永とミイが隣に座れるように、協力するからね」
フンス、と気合を入れる美津理に対して、埜永は冷めた表情。
埜永「美津理が隣の方がいい。気を遣わずにポップコーン食べられるから」
美津理「そっか……」
美津理(確かに好きな子の隣じゃ、遠慮して食べられないかも)
埜永「そうだ美津理、映画館では美津理とミイが隣に並んで俺と朔弥の間に座るといいよ。館内が暗くなるから、女子は知らない人と隣にならない方がいいと思う」
美津理「なるほどね、わかった」
美津理(そんなに大切にして、埜永は本当にミイのことが好きなんだなぁ)
美津理「それじゃ、埜永、私、ミイ、朔弥くんの順番で座ればいいってことね」
埜永「そう」
勉強机の椅子から立ち上がった埜永が、ベッドに来て美津理の隣に座る。
「俺、美津理、ミイ、朔弥」と言いながら、美津理のいる方とは反対側の手で、埜永が座る位置を空中で指さしていく。
そして最後に若干美津理を押し倒すような感じで埜永がベッドへ手をついた。
埜永「好きだ」
耳元で甘く囁かれ、美津理の顔が赤くなる。
美津理(告白の練習の不意打ちは反則だよ~っ)
○映画館(日曜日)
映画を見終わって、「おもしろかった」と言いながら場内から出てくる四人。
お手洗いに行くという美津理とミイに、「ここで待ってるね」と笑顔で朔弥が告げている。
朔弥のすぐそばにいる埜永にはそんなに表情がない。
ふたりになった朔弥と埜永を見て「かっこいい」「声かけちゃう?」と周りの女子が囁いている。
朔弥「あーあ、本当は美津理ちゃんとふたりで来たかったな」
美津理とミイがいなくなると残念そうに、かつ、埜永に聞こえるように朔弥が独り言をつぶやく。
そして朔弥はいつもの優しい笑みとは違う、少し意地悪な笑みを埜永へ向けた。
朔弥「埜永のことは弟みたいに可愛いけど、美津理ちゃんだけは譲るつもりないから」
「待たせてごめんね」と言いながらお手洗いから戻ってきた美津理を「大丈夫だよ」といつもの笑顔で朔弥が迎える。
平凡な容姿の美津理を見て、周りの女子が「あれが彼女?」「いや違うでしょ」と囁いた。
でもそのあとミイが戻ってきて囁いていた女子たちは「うわ、美人」「きれいすぎ」と言いながら退散していく。
朔弥「美津理ちゃんが前に行きたいって言ってたカフェが近くにあるから、このあと行ってみよっか」
美津理「え、朔弥くん、よく覚えてたね」
嬉しそうに驚く美津理のことを、少し暗い切なそうな表情で埜永が見つめていた。

