ギャルソンくん、

目の前の猫が喋るなんてことは、もちろんあるわけがなく。

かがんだまま固まっていると、ふと足元に影がかかった。


視界の端に映るのは、黒いローファー。

こんなに薄暗い路地でも光沢を放つそれは私のものよりウン万円は高そうだ。


足元からおそるおそる、輪郭をなぞるように見上げた先で、“彼”と視線がぶつかった。


────え?

体が硬直するあまり声すら出でこない。


うそ。まさか。
こんなことってある?


思考が行き止まるのとは裏腹に、鼓動は狂ったように早鐘を打つ。

くす、と笑った彼が当然のように隣にかがみ込んでくるので、おどろきと、それから謎の圧におされて、危うく尻もちをつきかけた。



「ミルクって名前。その猫」

「っ、え」


「黒猫なのに、鼻の横に白い模様があるでしょ。コーヒーにミルク零したみたいな柄だから」

「……あ、たし、かに」


「ところで。お前こんなとこにひとりでへいき?」