「なあ、あゆ─────夏井サン」
ほんの一瞬のためらいと共に空気が翳りを帯びて、その揺らぎを隠すように、彼の腕が私の背中に静かに回り込む。
やさしく、だけど抗えないほどの力に引き寄せられ、気づけば彼の胸の中。
制服を隔てて伝わるぬくもりが、逃げ場を奪うように私を包み込んだ。
「メーテルくん?」
「気づいてるか? 会場にいた男たち、みーんな歩果ちゃんに興味津々」
「え?」
「それこそ、すぐそこに隠れておれたちのことを覗いてる男……とか」
その直後、背後で人の動く気配がして、心臓が跳ねる。
「あーあ、バレてないと思ったのにな。さっすがメーテル君、隅に置けないですね」
そんな声と一緒に現れたのは、ひとりの男の子────。
「メーテル君が超珍しく女の子連れてるんで、気になって気になって」
「おれのじゃねえよ」
「え、まじで?」
「おれはギャルソンが戻ってくるまでの間、この女の世話係を任されただけ」
ふうん、と品定めをする目つきで見つめられて、全身が強張った。
「じゃあ、ギャルソン君の……」
訝しげだった表情が、次第に憐れみに染まっていく。
「可哀想」
その声は、たしか私に向けられていた。
「何人目の犠牲者になるかな」



