そっと手を引かれた。
メーテルくんは金髪の男性に背を向けると、言葉もなくただ奥へ奥へと私を導いた。
何も言わない彼に、私も何も言えないせいで、空気がよりいっそう重たく感じる。
この緊張を少しでも逃そうと、気づかれないように息を深く吸って、吐いた。
そのとき、ふと気づく。
触れる手の感触は、決して冷たくはない。
あ………、たぶん大丈夫、だ。
すぐそこにあったはずの喧騒が遠ざかっていくにつれて、自分の鼓動が少しずつ穏やかになるのがわかる。
「まじで来たんだな、あんた」
メーテルくんがようやく足を止めた。
私を振り返った笑顔が、出会って間もないのに彼らしい、なんて思って、ひどくほっとした。
やっぱり……さっきのは演技だった。
私のことを、まるで知らない人みたいに扱った理由。
初めは混乱したけれど、少し考えればわかることだった。
あのときギャルソンくんが言っていた。
───俺たちは不仲で売っているから、と。
冗談っぽくも聞こえたけれど、あの言葉にはたしかな重みがあった気もする。
そうやって都合のいい記憶を捏造し貼り付けた私は、改めてメーテルくんに向き直った。
メーテルくんは金髪の男性に背を向けると、言葉もなくただ奥へ奥へと私を導いた。
何も言わない彼に、私も何も言えないせいで、空気がよりいっそう重たく感じる。
この緊張を少しでも逃そうと、気づかれないように息を深く吸って、吐いた。
そのとき、ふと気づく。
触れる手の感触は、決して冷たくはない。
あ………、たぶん大丈夫、だ。
すぐそこにあったはずの喧騒が遠ざかっていくにつれて、自分の鼓動が少しずつ穏やかになるのがわかる。
「まじで来たんだな、あんた」
メーテルくんがようやく足を止めた。
私を振り返った笑顔が、出会って間もないのに彼らしい、なんて思って、ひどくほっとした。
やっぱり……さっきのは演技だった。
私のことを、まるで知らない人みたいに扱った理由。
初めは混乱したけれど、少し考えればわかることだった。
あのときギャルソンくんが言っていた。
───俺たちは不仲で売っているから、と。
冗談っぽくも聞こえたけれど、あの言葉にはたしかな重みがあった気もする。
そうやって都合のいい記憶を捏造し貼り付けた私は、改めてメーテルくんに向き直った。



