ギャルソンくん、

冗談っぽく笑っているけれど、ただの脅しには聞こえなかった。一拍遅れて背筋が冷えた。


帰れと言われたら従うしかない。

だけど、せっかく会えたのに、と名残惜しく思う気持ちが足元に強く絡みついて身動きを取れなくさせる。


「……どうしたの、帰り道がわからない?」

「………」


そんなわけない。まるで子ども扱いだ。

完全にからかわれている。

でも、それでも、もうなんでもいい。───噂通り、攫われたとしても。

攫えるものなら攫ってみてよ。どうせそれも都市伝説なんでしょ?しないでしょ?できないでしょ? やめてよ、私を、あの家にひとりにしないで。


「……そう。ならしょうがないね」


私はただ黙っていただけ。
聞かれたことに対して肯定も否定もしていない。

それなのにギャルソンくんはすべてを見透かしたように目を細め、小さく息を吐くように笑った。