───そうそう、もう高校生なんだよ。
とっくに大丈夫。克服してるし。
……といえば嘘になる。
ううん、嘘ではないけれど語弊がある。
我慢できるようになった、という表現が正しいかもしれない。
駅に向かっていたはずの足は気づけば回れ右をしていて、家とは反対方向へと進んでいた。
校門から北の区域──ギャルソンくんの支配下。
『また会えたらいーね』
……あの言葉が脳裏をよぎる。
ミルは室内飼いだって言ってたし、そう簡単に会えるとも思ってない、大丈夫。
ここに来たのは暇つぶし。
そう言い訳をしながら、そういえば、近くに公園があったことを思い出す。
あそこなら、ベンチでスマホを見てれば時間を潰せるかも……。
公園にもミルの姿はなかった。
それでもせっかくここまで来たんだからと、中に踏み込んだ──その瞬間。
私は目を見張る。
ベンチの上に人が横たわっている。
うちの制服だ。
グレージュの髪。中指に光る、シルバーリング。
もしかして……と1歩、近づいたときだった。
「起こさない方がいい」
背後から飛んできた声に、またしてもびくりと肩が跳ねる。
気配なんて感じなかった。
“彼”は、私のすぐ後ろにいた。
「メーテル君はね、寝起きの機嫌ヤバいんだよ」



