ギャルソンくん、

そういえば、ここは校門からまっすぐ北に進んだ先にある市街地だ。

──“ギャルソンくん”が仕切っている、と噂の。



「うちはメーテルくん派〜」

「じゃあ南に行けば? さよなら〜」

「ちょ、ひどっ! 冗談だって」


ギャルソンくん。メーテルくん。

この街のトップに君臨するふたりの男の名前は、初めこそ違和感があったはずなのに、今ではまるで昔から知っているみたいに日常に溶け込んでいる。



『北はギャルソン、南はメーテル』

そんな言葉がある。

噂によれば、私の通う高校を境に北の区域がギャルソンくん、南の区域がメーテルくんの支配下なんだとか。



「あゆ、早くして! 置いてくからね」

「……はーい」


親友たちと、足元の黒猫を交互に見つめる。

刹那、私を映すゴールドの瞳がなんだか寂しげに揺れた気がして、退きかけた足をぴたりと止めた。