「あゆー、ほっときなそんな猫」
「合コン遅れるじゃん」
呆れた視線を向けられながらも、そこから動くことができずにいた。
「ごめん。前に飼ってた猫にすごい似てて」
通り雨のあとのぬかるんだ地面にかがみ込むめば、その猫はびくりと身を引いた。
けれど牙を剥いたり爪を立てたりと威嚇する様子はなさそうだったので、人差し指を伸ばして、今度はそっと額に触れてみる。
「前飼ってた猫ってキキちゃんのこと?」
「うん、そう」
「黒猫なんだから似てて当たり前でしょー」
「でも顔つきとか、フォルム? まで、ほんとそっくりなんだよね」
へえー、と。興味なさげな声とともにみんなが背を向ける気配がして、私はゆっくり腰を上げた。
「猫もいいけど、今日はそれより大事なことがあるでしょー」
「ぼけっとしてたら、あゆ、ギャルソンくんに攫われちゃうかも!」
冗談っぽく笑う声が路地裏に響く。
ギャルソンくんになら攫われてもいいけどね──なんて言葉といっしょに。