「…」
「…」
「……なあ、あれ」
「…あんまじろじろ見んなって」
「でもなんか、困ってそうだけど」
「…あの人らのうちの誰かの女なんだろ、めんどいことになったらこっちが困る」
ロンさん相手に啖呵を切っておいてなんだが、部屋を飛び出した私を迎えたのは、凡そ歓迎的ではない小さな話し声と、容赦なく突き刺さる三つの視線。
彼等自身はこちらを見ないようにしているらしかったけれど、私もここの勝手を知らないし、羊ちゃんがどこにいるのか見当もつかないし。ちょうどいいので声を掛けることにした。
トツトツと近づく私に、明らかに彼らが慌て出す。
「お、いちょ待、来てるってこっち」
「お前が見過ぎるからだぞ話聞けよ」
「は?やだよお前行け」
「っあんでだよ!」
(…あの、)
「ったく根性ねえなクソガキ」
「同い年だろうがよ!」
「…お前ら、」
声を掛けたいのだけれど。
なぜか仲間内で始まった喧嘩の圧に押されて後ずさる。
(年下に見えるんだけどな)
まあどちらにせよ、私は今、羊ちゃんを探さなくてはならないのだ。
「──あのっ」
「あん?……な、なんですか」
言い争っていた二人の内一人が私を振り向き、雑に整えた丁寧語で答える。
「羊ちゃ、…えっと、羊さん?どこにいるか分かる?」
「んだよ邪魔すんなよ!」
と、争っていたうちのもう一方は私の存在をとっくに忘れてしまったようで、裏拳が飛ぶ。あまりに一瞬のことで動けずにいれば、争いには加担していなかったもう一人の彼が、その拳を制止した。
「いい加減にしろバカ」
手を止められたことで我に返り、目を丸くする。
「へ?…え、あっ!えええすいません!」
「…怖」
(殴られるかと思った)
ほんの鼻先まで近づいていた彼の裏拳を寄り目で見つめながら、少しだけ距離をとる。
怖かったのはどう考えても私の方なのに
裏拳の彼が、なぜか私よりずっと驚いていた。
(…騒がし)
慌てふためいた彼の表情を見ていると、なんだか笑えて来て、思わず口元がフッと緩む。
「…あ、笑った…」
「えっと……」
「…」
「あの、羊さんはどこに…」
「あ、あああそうだった」
三人組はよく似た背格好をしている。
しかし、これでもかというほどにオロオロしている子は一人だけ
あとの二人は比較的冷静な感じ。
どうやら、血縁というわけではなさそうだ。なんだか三つ子のように思えたのだけれど。
彼らの中で唯一髪の明るい一人が、淡白に私に答える。
「外出てすぐの喫煙スペースみたいなとこだと思うよ」
バイクのエンジン音、聞こえないし。
「わかった、ありがとう」
