「ま食パンしかないんだけどねえ…あ、いちごジャム、と、蜂蜜があった。どっちがいい?」
「うーん…蜂蜜かな」
「ヨウは」
「じゃ俺も蜂蜜」
“ヨウ”
ロンさんがそう呼んだ彼を、横目で盗み見る。
「なに?」
「…いや」
「目がうるさいねアンタ」
「…ひどいね」
可愛い顔の割にかなりちゃんと毒を吐くタチらしい。
平静を装ってるけれど。
私、これでも大分混乱してるんですけど。
「…ねえ、」
窺うようにおそるおそる声を掛ける。
「だから、なに?」
このルックスをもってして毒舌だというのも
このルックスをもってして、選んだ道が不良だったというのも、それはそれで魅力的ではある。
あるんだけど。
こっちにだって聞かなきゃならないことがある。
あれは、放っておくと私の人権にすら関わり得る問題だ。
「…あの、私たちなんで一緒に、その」
「…ああ、」
「昨日の、夜、その…」
「“なんで一緒に寝てたか”って?」
「…」
第三者(ロンさん)の手前どう答えるのがいいのかもわからず、為す術なく無言で頷く。
そんな私に、美少年ヨウがまたフッと笑った。
「なんも覚えてないんだ?」
「え、」
含みある言葉。
コテンと首を傾げる彼と対峙し、ものすごいスピードで顔面に熱が集まるのが分かった。
(まさか、)
自分でも昨夜の記憶を辿る。酒を飲んでいたわけじゃないし、私は本当に健全に、健康に睡眠をとっただけだ。
滑稽なほど明らかだった。
自分とこの美少年との間に、何かが起こり得たはずもない。
というか。あったのだとして、私に落ち度など一点もない。
(…いや、そんなはずない、やっぱり)
「そ、そそそそんなわけないでしょ!だ、って…私、寝てただけだもん!ほんとに、ほんとだから!」
頭の中は冷静なのに。驚くほど口が回らなかった。
“ヨウ”が可笑しそうに笑って言う。
「あんた、処女だろ」
「んな、なっ、馬鹿そ、そういうことじゃなくて!」
「はは、顔あけー」
数分前の発言を全撤回する。
顔だけ可愛くても許せないキャラだ。
「──なに、二人、寝たの?」
「んなわけないでしょ。昨日アイツらにバカみてーに飲まされたんだよ、俺も被害者」
「なるほど、酔ってたの」
「そういうこと」
「そっかそっか、なら仕方ないかー…、はいサヨちゃん、召し上がれ」
「わあ美味しそう」
「…」
「っじゃなくて!」
ロンさんと話していると、思わず彼のペースに巻き込まれてしまう。私は普段、ノリツッコミをするような面白い人間ではない。
怒涛の一週間で得た知見。
「…心臓、止まるかと思ったんだから」
「ごめんて」
「それだけ?」
「なに、今謝ったでしょ」
「、こんの……」
失礼な…
失礼な。
なのになんで、なんで…
「ちょっっと可愛いからってなんで、なんで怒れないんだ私…」
どうしてか。怒りが湧いてこないのは。
“ヨウ”の失礼な言動も、悲しいかな、彼の顔面にカバーされてしまうのである。
「こんの…ヨウちゃん、そうだ、ヨウちゃんだ!」
「は?なにちゃん付けてんだ舐めてんのかてめー」
「顔可愛いのが悪い」
「あん?殺すぞ!」
「ギャップに萌えるだけ」
「キモ!」
彼の名は
──原田 羊(ハラダ ヨウ)
私と同い年のかわいい男子高校生。
そして。
「──えっとロンさん、今なんて…」
「だから、ヨウは特攻隊長で」
「…と、特攻」
「うん、それで、特攻ってのは、簡単に言えばチームのバイク担当みたいなヤツらのことだから」
「バイク担当…」
「サヨちゃん、仲良くしといて損は無いよ。って」
「…」
「君も、好きでしょ?バイク」
朧の
特攻隊長さんであった。
