<6話 来たる地区大会>
◯市民会館(朝)

小雪「よし、全員いるね」
梨里杏「うわ……緊張する……」
小雪「大丈夫、練習通りにやろう」
蓮「開会式の席は取っておくから、発声練習行ってこい」
小雪「梨里杏、先行ってて。私タニセンと書類提出してくる」
梨里杏「りょーかいです!」

3人はそれぞれ違う場所に向かう。

◯市民会館の外(朝)

梨里杏「あめんぼあかいなあいうえお、うきもにこえびもおよいでる……」

梨里杏はいつもより少し震えた声であめんぼをしている。

梨里杏「わいわいわっしょいわいうえお、うえきやいどがえおまつりだ」
蓮「梨里杏」
梨里杏「え、蓮?どうしたの」
蓮「トイレ行こうとしたらお前が緊張してるのが見えた」
梨里杏「あー……そんなに?」
蓮「そうだな、小学校の学芸会並に」
梨里杏「学芸会?」
蓮「ああ、梨里杏が小1のときの」

回想

梨里杏「うぅ……」
蓮「梨里杏!ここにいたのか」
梨里杏「え、蓮……?」
蓮「先生が探してたぞ」
梨里杏「ご、ごめんなさい……」
蓮「どうしたんだ?」
梨里杏「すっごい緊張しちゃって……劇でうまく喋れなかったらどうしようって」
蓮「んー……じゃあ、俺とはんぶんこしよ!」
梨里杏「え?」
蓮「梨里杏の緊張半分、俺にちょうだい!」
梨里杏「緊張を渡すなんてできないよ?」

蓮は梨里杏の手を握る。

蓮「これではんぶんこ!」
梨里杏「……ちょっと緊張少なくなったかも……蓮、ありがとう!」

回想終了

梨里杏「よくそんなの覚えてたね……」
蓮「た、たまたまだよ」
梨里杏「蓮、あのときみたいに、緊張はんぶんこしようよ」
蓮「……ああ」

蓮は梨里杏の手を握った。

梨里杏「……蓮はやっぱりすごいね、また私の緊張半分持ってってくれた」
蓮「……俺も緊張してるから、それもはんぶんこな」
梨里杏「やっぱり、怖い?」
蓮「そりゃ、番組部門って当日何もできないからな。結果を待つことしかできないし、個人部門の人には応援することしかできない」
梨里杏「大丈夫……大丈夫、頑張ったんだもん」
蓮「ああ」
梨里杏「ちょっと落ち着いてきた、ありがと」
蓮「ああ……頑張れ」

◯市民会館、大ホール

梨里杏(もうすぐ朗読部門始まる……今年は42人、私は23番だから真ん中くらい)
司会「それでは、ただいまから朗読部門の審査を行います。はじめに……」
梨里杏(……大丈夫、緊張は半分こ)

しばらくたち、梨里杏の番になった。待機席から発表席に移動する。

梨里杏「……よし」

発表の席に座り、一呼吸置いて喋りだす。

梨里杏「……23番、河野梨里杏。夏目漱石、こころ」

梨里杏は少し落ち着いた表情で朗読を始めた。

梨里杏「……」

発表が終わり、席から立つ。自分の席に向かう。

梨里杏(今までの中で1番できたとは、思う。でも……やっぱり足りないなぁ)

しばらくすると朗読部門の審査が終わった。ラジオドラマがまだ審査中ということで、梨里杏は会館のロビーに向かった。


◯市民会館、ロビー

梨里杏「……あ、小雪先輩」
小雪「やあ梨里杏、お疲れ様」
梨里杏「お疲れ様です……っ」

梨里杏の目から涙が溢れ出す。

小雪「……緊張しちゃった?」

小雪はそっと梨里杏を抱きしめる。

梨里杏「ぅ、緊張はしましたが、蓮と、はんぶんこしたので……っ」
小雪「……そっかぁ」

梨里杏が落ち着いた頃、ラジオドラマの審査が終了した。梨里杏は小雪の肩を借りて眠っている。

蓮「終わったぞー……って梨里杏、寝ちゃったのか」
小雪「ああ……でも、蓮とはんぶんこしたから大丈夫って」
蓮「こいつ……」
小雪「青春してるねぇ」
蓮「うっせ」
小雪「……で、どうだった」
蓮「他校も力作揃いだ……でも、負ける気がしない」
小雪「県大会に行けるラジドラは三作品……」

蓮はニヤリと笑う。

蓮「絶対、大丈夫だ」

◯市民会館、大ホール
梨里杏「さっきはごめんなさい」
小雪「いーのいーの、後輩を甘やかすのが先輩の役目だから」

司会「ただいまから結果発表を行います。はじめに、朗読部門です」

朗読は上位10位まで発表され、その中で8位以上の人が県大会へ進出できる。アナウンスは上位8位まで発表され、6位まで。番組部門は共通で上位3位までが進出できる。
モニターに結果が表示された。

梨里杏「……え、9位!?」

梨里杏は驚いて声を上げる。

小雪「9位、か」
梨里杏「……賞に入れただけでも、嬉しいですから……初めてです、ほんと」

梨里杏は涙を流す。小雪も少し涙ぐんでいる。

小雪「梨里杏……次、次があるから」
梨里杏「っ、はいっ……!」
司会「続いてアナウンス部門です」

間髪を入れず、結果が発表される。

小雪「……あ」
梨里杏「っ!!先輩っ!!」

モニターには優秀賞、門田小雪と表示された。

梨里杏「おめでとうございます……っ!」
蓮「おめでとう」
小雪「……ありがとう」

喜びムードになりつつも、特に蓮はまだ緊張の表情をしている。番組部門が次々と発表される。

司会「……最後に、創作ラジオドラマ部門です」
蓮(頼む……)
梨里杏「うぅ……お願い!」

モニターに結果が表示された。

梨里杏「っ!!」
蓮「あ、え」
梨里杏「最優秀賞っ……!?」

梨里杏は号泣。蓮と小雪もつられて泣いている。

梨里杏「良かった……良かったぁ……」
蓮「ぐすっ……良かった」
小雪「さっきあんなに自信あったのに?」
蓮「でも最優秀賞取れるなんて思ってなかったから……やばい、涙とまんねぇ」
小雪「……でもその涙、取っておくよ。県大会で終わりじゃない。目指す先は……全国だ」