◯放送室(放課後)
蓮「おつかれっす……」
梨里杏「今日も寝不足?私が抜けたあと結構長い時間話してたみたいだけど……大丈夫?」
小雪「だいじょーぶ、結構固まったから」
梨里杏「あ、お疲れ様です!」
小雪「まだ共有してないんだっけ、送ってあげなよ」
蓮「お、おう……」

蓮は少し照れながら脚本データを共有する。梨里杏は脚本データを開き、じっくり読む。

梨里杏「……す、すごい!昨日見たときより良くなってる!」
蓮「ほ、ほんとか!」

蓮は微笑んでいる。

小雪「でも、まだまだだ。パソコンに過去3年分の大会データは入ってるはずだ。それぞれスマホにダウンロードして空き時間に聞くように」
梨里杏・蓮「はーい」

最初に梨里杏がダウンロードする。

梨里杏「昨日結局何時までやったんですか?」
小雪「ん?1時」
梨里杏「え!?それもう今日じゃないですか!」
小雪「25時だから、セーフ」
梨里杏「セーフじゃないですよ……私その時間寝てました」
小雪「健康的な生活してて偉いねぇ」

次に小雪がダウンロードする。

梨里杏「そういえば登場人物の名前ってまだ決まってませんよね?何にします?」
蓮「確かに仮でA、Bとしか付けてなかったな」
梨里杏「折角なら一工夫ほしい……」

3人は悩む。

小雪「あ、花の名前にしたら?名前に花言葉を織り交ぜてメッセージにする、みたいな」
梨里杏「わぁ……!ロマンチック……!」
蓮「良いな……そうしよう!でも花言葉なんて知らないしな」
小雪「今の時代、花、人の名前って入れたらすぐ出るでしょ」

梨里杏と蓮はスマホで検索し始めた。

梨里杏「桜、カエデ、桃、杏……意外とたくさんあって迷っちゃう」
小雪「それでお洒落な花言葉でもあればさらに良いんだが」
蓮「……百合……」
梨里杏「百合?たしかにそれも可愛い!」
蓮「純潔、無垢、威厳か……ありだな」
小雪「無垢、ね。梨里杏にぴったりじゃないか!」
蓮「ちょ、小雪」
梨里杏「確かにこの子、無垢な性格してますよね!百合にしましょ!」
小雪「ふふ、うちの子はかわいいねぇ」
蓮「……おいやめろ……あとは男子の方か」

梨里杏はスマホで検索をしていたが、手を止める。

梨里杏「蓮って、『れん』とも読めるけど『はす』とも読めるよね」
蓮「ああ、確かにそうだが」
梨里杏「じゃあ、蓮そのままでも良いんじゃない?」
蓮・小雪「え!?」
梨里杏「え、結構良いと思ったんですが……だめでしたか?」
小雪「天然すぎやしないかいこの子」
蓮「あー、えっと……蓮の花言葉は……清らかな心?」
梨里杏「百合と似てていいね」
蓮「……まあ、確かに」
小雪「じゃあ蓮は自分の名前のまま行こうか!」
蓮「……なかなか恥ずかしいな」

2人がダウンロードし終わる。

蓮「じゃああと俺だけだな。2人は読みの練習して」
梨里杏「はーい」
小雪「あ、私はちょっとだけ残るから梨里杏は先に視聴覚室で練習しておいで」
梨里杏「あ、わかりました」

梨里杏、放送室から出る。

小雪「梨里杏、褒めてくれたね」
蓮「まあ昨日あんだけ頑張ったからな……」
小雪「あのあとさらに変えたんでしょ?」
蓮「少しだけな」
小雪「なんかさ、確かに良くなってっているんだけど、なにか物足りない気がしないかい?」
蓮「うーん、言いたいことはなんとなくわかる」
小雪「何が足りないか、わかる?」
蓮「なんだろ……やっぱり波か?」
小雪「君だよ」
蓮「え?」
小雪「私も悪いんだけどね。物語の構成を気にしすぎるあまり、君の思いが消えている気がするんだ。最初に見せてくれたのは文章こそ拙かったが、思いは伝わってきた……蓮、もっと貪欲にやっていい」
蓮「う……」
小雪「少なくともこの脚本を書くと決めた時点で、覚悟は決まっているのだろう?」
蓮「……そうだな」
小雪「ならもっと梨里杏への思いをさらけ出すんだ」
蓮「梨里杏への思いを……」
小雪「ま、とりあえず帰って他のラジドラも聞いてみるといい」

蓮は放送室を出て、帰路につく。

◯蓮の部屋(夜)

蓮はスマホに入れたラジドラの音源を聞いている。

蓮「梨里杏への思い、か」

蓮はスマホを床へ投げ捨てた。

蓮「全然だめだな、俺だけ毎日先に帰って、何も進んでない」
蓮「なんか良いアイデア……あ」

蓮は机の引き出しからアルバムを取り出した。写真を見て、とある出来事を思い出している。

◯回想
◯梨里杏の家(2人が幼稚園に通っていた頃)

梨里杏「れん、短冊になんて書いた?」
蓮「え、お、俺は……」
梨里杏「私はね、蓮とずっと一緒にいれますようにって書いた!」
蓮「そ、そうなのか……」
梨里杏「いやだった?」
蓮「そんなわけない!俺も梨里杏とずーっと一緒にいる!」

◯回想終了

蓮「今思えば梨里杏結構大胆だな……まあ幼稚園児だからこんなもんか」
蓮「そういやこのときもうすでに好きだったんだよな……はぁ、このときの俺は高校生までずっと初恋こじらせてるとは思わないだろうな」

アルバムを机の中にしまう。

蓮「……ここまできたんだ、やるしかない」

蓮はノートを取り出した。


◯放送室(放課後)

蓮の目には隈ができている。

蓮「できた」
梨里杏「ついに……!」
小雪「見せて見せて」

蓮は2人に脚本を見せる。

梨里杏「おぉ……!」
小雪「結構良い感じじゃない?」
蓮「よっしゃ、次は録音だ」
梨里杏「蓮は蓮やるとして……百合役は小雪先輩だよね」
蓮「え、俺百合役は梨里杏で考えてたぞ」
梨里杏「いやいや、小雪先輩がやるべきでしょ」
蓮「いや、梨里杏はセリフ読むのとか得意だろ」
梨里杏「でも……脚本だって私より小雪先輩とずっと打ち合わせしてて、それで上手くいったんだよ?なら脚本の内容がよくわかってる小雪先輩とやるべきじゃ」
蓮「り、梨里杏じゃなきゃダメだ。それに小雪はアナウンスだ」
梨里杏「そうかもしれないけど、慣れてるのは小雪先輩だよ、絶対、私なんて、全然、まだまだだよ、全然賞にも入らないし、この地区の2年の中で1番下手で」
蓮「違う!」
梨里杏「っ?!」

蓮が急に大きな声を出し、梨里杏は驚く。

蓮「梨里杏は、誰よりも努力してる、小さい頃からそうだろ?上手くいかなくても、周りの奴らのほうが優れてても、努力して、挑戦して、誰よりも頑張ってる、お前が1番かっこいいと思ったから!俺は梨里杏に百合役をやってもらいたいって思ったんだ!!」
梨里杏「……れ、蓮、俺は編集一筋だから声は使わないって」
蓮「だーっ!最後くらい良いだろ!」

蓮は少し顔を赤らめている。

梨里杏「蓮……」
小雪「ふたりとも少し頭冷やしな」
梨里杏「……ごめんなさい。2人にとっては、最後の大会なのに」
蓮「……俺も悪かった。わがまますぎた」
梨里杏「そんなことないよ!最後なんだから、先輩方の意見尊重するよ」
蓮「でも梨里杏が嫌なら無理はしてほしくない」
梨里杏「無理なんてしてないから……っ!私も蓮と、小雪先輩と一緒に最高の作品作りたい……っ!」

梨里杏は泣き出してしまった。小雪は梨里杏をそっと抱きしめる。

小雪「……幸せだね、蓮。こんなに私たちを思ってくれる後輩がいて」
蓮「……ああ、まったくだ」
梨里杏「っ、ぅう……」