◯放送室(放課後)
放課後、暖房のおかげで暖かい放送室で、放送部に所属する梨里杏、蓮、小雪が集まり、みんな地べたに座っている。小雪がホワイトボードとペンを取り出す。

小雪「さて、いよいよ12月……。放送の甲子園とも言われる夏の高校放送コンテスト、通称放コンまで半年をきった。テストも終わったことだし、今日から早速大会に向けた話し合いをしていこうと思う!まず個人部門だが、私は最後もアナウンスでいく。取材先ももう決めている。他は?」
梨里杏「私は朗読でいきます。夏目漱石の『こころ』を読む予定です」
小雪「ほう、古典文学にいくか!夏目漱石とはいえ、課題図書の中では1番難しいと思う。頑張ろうな!で、蓮は今回も個人不参加か?」
蓮「……俺、ラジオドラマ作りたい」

小雪はペンを止める。

小雪「まだ個人部門の話なんだが……というかラジドラ?てっきり今回もドキュでいくものかと思ったが」
蓮「最後だからこそ、挑戦したいんだ」

梨里杏も少し驚いた表情をしている。

小雪「君の意見を否定するつもりはない。だが、女子2人に男子1人で作れるドラマは相当限られている。それに君は技術班だ、厳しく言ってしまうようだが、ドラマは自然に役を演じきることが求められる……それでも、やるのかい?」
蓮「その覚悟があるから言ってる」
梨里杏「蓮は昔から、一度決めたら絶対曲げないよね」
小雪「はは、さすが幼馴染!よくわかってるね。じゃあ、私はアナウンス、梨里杏は朗読。出す番組は創作ラジオドラマ部門、で構わないかい?」

蓮と梨里杏が頷く。

小雪「最後なのにこんなにあっさり決まるとは思わなかった……」
梨里杏「それで、蓮はなんでラジドラをやりたいわけ?」
蓮「あっ……えっと、さっきも言った通り、最後だから今までやったことのないことに挑戦したいんだ」
小雪「まあ蓮は編集、音声処理得意だし、全く心配してないが……問題は、何をやるか、何を伝えたいか、だ」

小雪は喋りながらホワイトボードに決まったことを書き連ねる。

小雪「ラジドラ自体はみんな聞いたことあるね?県大会の決勝と、Webサイトに載ってる上位4作品。一応、県大会までなら全データがパソコンに入っているはず」
梨里杏「はい……でも、作るとなるとかなり難しそうというか。音で全部表現しないといけないのってかなり工夫がいりますよね。蓮、なにかやりたいものでもあるの?」

蓮は顔を下に向け、床を見つめている。

蓮「審査基準に高校生らしさってあるだろ?それを全面的に活かした作品を作りたいんだ。」
小雪「結局先輩方も正解がわからなかったと言っていたな」
梨里杏「高校生らしさ?」

梨里杏が首をかしげる。

小雪「私と蓮が入学する前の先輩が作った作品が、県大会で上位に入賞らしいんだ。そのときはテレビドラマだったが。あと一歩及ばなくて、何が足りないんだと思って講評を見たときに、高校生らしさという点で他の作品のほうが優れていたらしい。もちろんその他にも改善すべき場所はたくさんあったけれども」
蓮「で、俺らの2つ上が『ドラは難しいからドキュにしよう』って言ってそのまま引き継がれたんだ」
梨里杏「ドラってそんなに難しいんですか……?」

梨里杏が顔を青ざめる。

小雪「脚本から配役から全部自分たちでやらないといけないしな。それでも声だけだからテレドラよりもマシ……って言ったら先輩方に怒られそうだ」

小雪が笑いながら話す。

小雪「とりあえず提案者が珍しく蓮なんだ、編集だけじゃなく脚本もやってみないか?もちろん私も梨里杏も手伝う」

梨里杏が頷く。

蓮「そのつもりだ」
梨里杏「頑張ってね、蓮」

蓮が少し顔を赤らめながら頷く。

小雪「さて、じゃあ私と梨里杏は個人部門の準備を進めよう。蓮は一旦今日は帰って脚本のプロットを書きたまえ」
蓮「はーい。てことでお疲れ様でした」

蓮が部室を出て、家に帰る。

梨里杏「小雪先輩、蓮がああやって番組リーダーするのって初めてですよね?大丈夫なんでしょうか……」
小雪「大丈夫さ、少なくとも君より1年長く放送部やってるからね。それよりも……本当にごめん。現1年生が君しかいないから、来年は強制的に部長だ。万が一、新入生が入ってこなかったら……いや入ってきても、かなりの負担になる。これは上手く勧誘できなかった私たちの代の責任だ」
梨里杏「もう、心配しなくて良いって言ったじゃないですか。確かに、番組を作るのはかなり厳しくなりますが、個人部門なら出れますし……その他もなんとかしますよ、行事のときは最悪生徒会に協力を仰げばいいわけですし」
小雪「梨里杏……!私はきみのような優秀な後輩を持てて幸せだよ!」

小雪は梨里杏に勢いよく抱きつく。

小雪「蓮のことは心配だが、我々が今日やるべきは個人部門の準備だ」
梨里杏「はいっ!」

◯学校の外(放課後、17時くらいなので少し暗い)
蓮「うわぁ……言っちゃった」

蓮が顔を赤らめながら帰路につく。

蓮(相当前から考えていたとはいえ、恥ずかしい……でも)
蓮「やるんだ」