緊張の中、自宅に招き入れられてリビングに通される。
「本日は突然伺い申し訳ありません。これ千紗さんと選びました。お口に合えば良いのですが。」
丁寧にそう伝え、彼女の父に手土産を差し出す。
「これは…ご丁寧にどうもありがとう。
君は…千紗の介助人と聞いていたのでてっきり女性の方とばかり。…失礼ですが、どういうご関係で?」
千紗の父からの的確な質問を受け、真摯に嘘偽り無く答える。
「今、彼女が勤める病院で眼科医をしております。如月と申します。」
胸ポケットから名刺を取り出して、彼女の父に渡す。
「これはご丁寧に。頂戴いたします。
…お医者様ですか?なぜ今日は遠路はるばる一緒に?」
父親から警戒心むき出しの表情を、その隣に座る母親と妹からは興味津々の顔を向けられる。
「実は、一昨日から都心で眼科に関するシンポジウムがありまして、病院から代表して私と千紗さんが派遣されました。今日は2人共振替休日で、ご実家が近いと聞いたので是非ご挨拶をと思い立ったのですが、急だったにもかかわらず、お時間を頂きありがとうございます。」
我ながら、品行正当を絵に描いたような返答を返す。
「そうなんですね…。それで、えっと…千紗とは、どのようなご関係で?」
彼女の母親から先を急かされて、自分が今伝えるべき返答を見つけ出す。
「彼女は私にとって大切な存在です。出来ればこの先お付き合いをと思ってますが、彼女自身は病気の事を深く気に病んでるようで、なかなかご承諾頂け無いのですが、いずれは彼女の支えになれたらと思っています。」
恋人ではないまでも1番近しい男なのだと、伝えおきたい真実を話して聞かす。
一瞬、この部屋の時間が止まったような錯覚に陥る。さすがに受け入れ難い事なのだろうかと、俺自身もその場の空気に緊張する。
「…如月先生は眼科医として凄い方なので、私なんかが釣り合う筈もない方です。そんな風に行って貰えるだけで光栄です…。」
口火を切ったのは千紗本人で、肯定とも否定とも取れない絶妙な返事で返され言葉を失う。
彼女らしいな…とは思うが、また振られたのかと苦笑いしか出来ない。
「いつもこうやって俺の本気を流されてしまうんですけど…。」
苦笑いしながらそう伝えるが、これ…公開処刑ぐらい恥ずかしいな…と思う。
だけど、嘘偽りないこのやり取りが今の精一杯だ。
「とりあえず、まだ俺は諦めませんので…いつか良い報告が出来るのを待って頂ければと思います。」
頭を下げる。
「千紗を、そんな風に思って頂ける方がいるなんて…親として嬉しいです…本当に、ありがとうございます。」
千紗の母親が感極まったという感じ、ハンカチを目頭に当てている。
「この子には申し訳なくて…病気の事…遺伝的な要因も多いと聞いてます。…誰よりも頑張り屋でいい子なんです。ただ目が見えないだけで…普通の人と同じように、生きられない、なんて…悔しくて、切なくて…
親として…何もしてやれないのが、辛くて…。」
母親として今まで思い悩んでいた全ての感情が溢れたように涙を流している。
「彼女の目の事で医師として一つだけ提案出来る事はあります。ただ、彼女自身の意志無くして成り立たない事なので、今回は控えさせ下さい。お母様は希望を持って諦めずにいて頂けたら思います。」
そこまで話して立ち上がる。
「今日は、久々の家族団らんにお邪魔させて頂きまして、ありがとうございました。積もる話しもあるかと思いますので、私はこれで失礼します。彼女が帰る頃また伺いますので。」
場はわきまえている。俺はただの赤の他人だから、長居は無用だと一礼して廊下へと向かおうとすると、
「如月先生ありがとうございます。娘の事を思ってくれて、妻の気持ちを汲んでくれて嬉しく思います。是非また来て下さい。その時はこの酒で一杯やりましょう。」
そう言って千紗の父親が立ち上がり、俺に右手を差し出してくる。俺はその手を快く握り返し、笑顔でその場を立ち去る。
「…如月先生…あの…。」
俺が離れた事を一寸遅く理解した千紗も立ち上がり、俺に向けて歩み寄ってくる。その表情から読み取れるのは不安と…寂しさ…?
「大丈夫。ここに来る途中で気になる古本屋を見つけたんだ。そこで時間を潰しているから、帰り時に連絡くれたら直ぐ迎えに来るよ。俺はとりあえずここで失礼するよ。」
そう、彼女にだけ聞こえるような小声で伝える。
「…ありがとう、ございます。」
そう彼女は頭を下げてくるから、軽くポンポンと触れてその場を後にした。
恥はかいたが清々しいくらいに気持ちが晴れ晴れした。
嘘をつかなくて良かったと安堵する。
玄関で靴を履いていると、
「如月先生!」
と、背後から声を掛けられ反射的に振り返る。すると、彼女によく似た目でキラキラと見てくる妹の理紗がいた。
「どうされましたか?」
不思議に思いそう聞くと、
「如月先生って…あの、藤堂さんじゃないんですか?藤堂涼さん…姉が高校生の時よく一緒にいた。」
えっ…⁉︎と思う。千紗の妹に会ったのは今日が初めての筈だ。なぜ、誰にもバレなかったのに…!?
ここで認めてしまった方が賢明だろうと、一瞬遅れて返事を返す。
「なぜ、そう思ったの?」
そう聞くと、嬉しそうに彼女の妹は微笑を浮かべる。
「私、いつも貴方が迎えに来る時、こっそり2階の部屋から見てたんで。イケメンだなって、姉とお似合いで密かに推していたんです。
嬉しいです!またお会い出来て、まさか会話も出来る日が来るなんて…」
まるで、どこかのアイドルを見るような目を向けて来るから、若干たじろぎ一歩後ろに後退る。
「その事…お姉さんには内緒にしてもらえないだろうか。」
「いいですよ。イケメン医師の秘めた思い。大好物です。私、陰ながら応援しています。」
両手を目の前に組み、祈るようにこちらを見てくる。
…大好物…ってなんだ?今のJKは何を考えているのかよく分からないが…。
よく分からないながらも味方を得たと思い、千紗によくやるように頭をポンポンと撫ぜる。
すると、飛び上がらんばかりに目を丸くして歓喜する。何となく5年前の千紗に重なって見えてしまう。
玄関で妹と別れを告げて、足取りも軽く先ほど目を付けていた古本屋へと歩き出した。
「本日は突然伺い申し訳ありません。これ千紗さんと選びました。お口に合えば良いのですが。」
丁寧にそう伝え、彼女の父に手土産を差し出す。
「これは…ご丁寧にどうもありがとう。
君は…千紗の介助人と聞いていたのでてっきり女性の方とばかり。…失礼ですが、どういうご関係で?」
千紗の父からの的確な質問を受け、真摯に嘘偽り無く答える。
「今、彼女が勤める病院で眼科医をしております。如月と申します。」
胸ポケットから名刺を取り出して、彼女の父に渡す。
「これはご丁寧に。頂戴いたします。
…お医者様ですか?なぜ今日は遠路はるばる一緒に?」
父親から警戒心むき出しの表情を、その隣に座る母親と妹からは興味津々の顔を向けられる。
「実は、一昨日から都心で眼科に関するシンポジウムがありまして、病院から代表して私と千紗さんが派遣されました。今日は2人共振替休日で、ご実家が近いと聞いたので是非ご挨拶をと思い立ったのですが、急だったにもかかわらず、お時間を頂きありがとうございます。」
我ながら、品行正当を絵に描いたような返答を返す。
「そうなんですね…。それで、えっと…千紗とは、どのようなご関係で?」
彼女の母親から先を急かされて、自分が今伝えるべき返答を見つけ出す。
「彼女は私にとって大切な存在です。出来ればこの先お付き合いをと思ってますが、彼女自身は病気の事を深く気に病んでるようで、なかなかご承諾頂け無いのですが、いずれは彼女の支えになれたらと思っています。」
恋人ではないまでも1番近しい男なのだと、伝えおきたい真実を話して聞かす。
一瞬、この部屋の時間が止まったような錯覚に陥る。さすがに受け入れ難い事なのだろうかと、俺自身もその場の空気に緊張する。
「…如月先生は眼科医として凄い方なので、私なんかが釣り合う筈もない方です。そんな風に行って貰えるだけで光栄です…。」
口火を切ったのは千紗本人で、肯定とも否定とも取れない絶妙な返事で返され言葉を失う。
彼女らしいな…とは思うが、また振られたのかと苦笑いしか出来ない。
「いつもこうやって俺の本気を流されてしまうんですけど…。」
苦笑いしながらそう伝えるが、これ…公開処刑ぐらい恥ずかしいな…と思う。
だけど、嘘偽りないこのやり取りが今の精一杯だ。
「とりあえず、まだ俺は諦めませんので…いつか良い報告が出来るのを待って頂ければと思います。」
頭を下げる。
「千紗を、そんな風に思って頂ける方がいるなんて…親として嬉しいです…本当に、ありがとうございます。」
千紗の母親が感極まったという感じ、ハンカチを目頭に当てている。
「この子には申し訳なくて…病気の事…遺伝的な要因も多いと聞いてます。…誰よりも頑張り屋でいい子なんです。ただ目が見えないだけで…普通の人と同じように、生きられない、なんて…悔しくて、切なくて…
親として…何もしてやれないのが、辛くて…。」
母親として今まで思い悩んでいた全ての感情が溢れたように涙を流している。
「彼女の目の事で医師として一つだけ提案出来る事はあります。ただ、彼女自身の意志無くして成り立たない事なので、今回は控えさせ下さい。お母様は希望を持って諦めずにいて頂けたら思います。」
そこまで話して立ち上がる。
「今日は、久々の家族団らんにお邪魔させて頂きまして、ありがとうございました。積もる話しもあるかと思いますので、私はこれで失礼します。彼女が帰る頃また伺いますので。」
場はわきまえている。俺はただの赤の他人だから、長居は無用だと一礼して廊下へと向かおうとすると、
「如月先生ありがとうございます。娘の事を思ってくれて、妻の気持ちを汲んでくれて嬉しく思います。是非また来て下さい。その時はこの酒で一杯やりましょう。」
そう言って千紗の父親が立ち上がり、俺に右手を差し出してくる。俺はその手を快く握り返し、笑顔でその場を立ち去る。
「…如月先生…あの…。」
俺が離れた事を一寸遅く理解した千紗も立ち上がり、俺に向けて歩み寄ってくる。その表情から読み取れるのは不安と…寂しさ…?
「大丈夫。ここに来る途中で気になる古本屋を見つけたんだ。そこで時間を潰しているから、帰り時に連絡くれたら直ぐ迎えに来るよ。俺はとりあえずここで失礼するよ。」
そう、彼女にだけ聞こえるような小声で伝える。
「…ありがとう、ございます。」
そう彼女は頭を下げてくるから、軽くポンポンと触れてその場を後にした。
恥はかいたが清々しいくらいに気持ちが晴れ晴れした。
嘘をつかなくて良かったと安堵する。
玄関で靴を履いていると、
「如月先生!」
と、背後から声を掛けられ反射的に振り返る。すると、彼女によく似た目でキラキラと見てくる妹の理紗がいた。
「どうされましたか?」
不思議に思いそう聞くと、
「如月先生って…あの、藤堂さんじゃないんですか?藤堂涼さん…姉が高校生の時よく一緒にいた。」
えっ…⁉︎と思う。千紗の妹に会ったのは今日が初めての筈だ。なぜ、誰にもバレなかったのに…!?
ここで認めてしまった方が賢明だろうと、一瞬遅れて返事を返す。
「なぜ、そう思ったの?」
そう聞くと、嬉しそうに彼女の妹は微笑を浮かべる。
「私、いつも貴方が迎えに来る時、こっそり2階の部屋から見てたんで。イケメンだなって、姉とお似合いで密かに推していたんです。
嬉しいです!またお会い出来て、まさか会話も出来る日が来るなんて…」
まるで、どこかのアイドルを見るような目を向けて来るから、若干たじろぎ一歩後ろに後退る。
「その事…お姉さんには内緒にしてもらえないだろうか。」
「いいですよ。イケメン医師の秘めた思い。大好物です。私、陰ながら応援しています。」
両手を目の前に組み、祈るようにこちらを見てくる。
…大好物…ってなんだ?今のJKは何を考えているのかよく分からないが…。
よく分からないながらも味方を得たと思い、千紗によくやるように頭をポンポンと撫ぜる。
すると、飛び上がらんばかりに目を丸くして歓喜する。何となく5年前の千紗に重なって見えてしまう。
玄関で妹と別れを告げて、足取りも軽く先ほど目を付けていた古本屋へと歩き出した。



