君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

とりあえず、落ち着きたいと乗り込んだタクシーで、如月先生が泊っているというホテルへ向かう。

「君が泊まるホテルはどこか分かる?」
さっき篠原さんには今日帰ると言っていたから、てっきり如月先生は帰るのかと思っていたのに、実は有給を2日もらっているから明日は東京観光でもして帰る予定で、もう一泊するんだと、タクシーに乗り込んだ早々聞かされた。

「えっと…。」
ポケットからスマホを取り出して、メッセージアプリを立ち上げ、音声ガイドを聞こうとすると、サッと如月先生が私の手ごと引き寄せてスマホを覗く。

「ああ、やっぱり同じホテルだな。今回だけはたぬき親父にお土産でも買って帰ろう。」
と、言って笑う。

「そうなんですね。手間が省けて良かったです。」
意味をなさない私の言葉を受けて、

「何も分かってないな…。」
と、如月先生がボヤく。

「明日の予定は?実家には帰るのか?」
実家に帰る決心はまだついていない…
母と上手く関わり合えるのかそれこそ分からない。

「ここ3年ほど帰ってないんです。
…私がいると良くないんです…実は母が心を病んでしまってノイローゼ気味なんです…私の目の病気のせいで、自分を攻めてしまうって…その事もあって離れて生活をしてるんです。」
自分の家族事情を話すには少し気恥ずかしいきもする。

「そうだったのか…。たまに患者よりも親が取り乱すご家族はいるが…。君のお母さんが…」

「私正直、今回会うべきか…どうか、迷ってます。3年前から母には電話もしていなくて、妹や父に様子を聞く程度だったんです。」

母の心が病んだのは私の目がほとんど見えなくなった時だった。誰よりも…自分の事のように頭を悩ませていたから、私の将来を憂いて哀れんで…自殺未遂するほどになってしまった。

それでも父と妹とは週一回程度連絡を取ってはいるが、今突然母に会うのは、母にとってプラスになるのか、私には分からない…。

「君が1人でも元気にしている姿を見せれば、お母さんも元気になるんじゃないかな?
…無責任な言い方かも知れないけど、俺は少なくともそう思う。」

『案ずるより生むが易し』
取り乱す事があっても、以前より悪くはならないだろう。如月先生ががそう言って私の背中を押してくれた。