君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

なんとか気まずかった空気が、いつもの感じに戻り戻し、気を取り直してシンポジウムの会場に戻る事が出来た。
本音を言えば、仕事なんてほっぽり出して、このまま彼女と東京観光にでも繰り出したいところだが…。

トーク会を終えてからじゃ無いと仕事は終わらない。彼女も真面目に全ブースを回って全てをリポートに書く勢いだ。

トーク会の打ち合わせの時間になり、俺は不安を抱えつつ彼女と一旦離れる。独りでブースを回らせるのは不安でしか無い。誰かに案内役を頼むのも嫌だ。

不安に駆られて10分そこらで舞い戻り、俺に与えられた楽屋を貸すから、忘れないうちにリポートの為のメモを書いておくといいと、それらしい事を言って控室に取り止める事に成功した。

ただ、目敏く彼女を楽屋に連れ込んだのを見ていたどこかの大学教授に、しつこく誰だと聞かれて気まずい思いをしたが…。

20分程で打ち合わせは終了して、足早に楽屋に戻ればちゃんと、彼女はちゃんとそこに居てくれた。俺から言われた通りPCに向かい仕事に誠実に向き合っているようだ。

写真や動画を撮って見れない分、ボイスレコーダーを活用して記録もきっちり取っていた。
俺は浮かれてデートでもしている感覚で楽しんでいたから、罪悪感が半端ない。

「偉いな。ちゃんと記録していたんだ。」
彼女は仕事に没頭していたようで、隣の椅子に座ってそっと声を掛けると、ビクッと肩を揺らし驚きを見せる。

「お、お疲れ様でした。思ったより早かったですね…。」
こちらに目を向けて驚き顔を見せる彼女は、一見本当は見えてない、と分からないくらいに自然で、その澄んだ瞳は昔のまま綺麗に輝いて見えた。

「ごめん驚かせたか?何度かノックはしたんだけど…君が集中してるみたいだったから、邪魔したくなくてそっと入って来たんだ。」

「…いえ、ここは如月先生の楽屋なので…私がお邪魔してる身ですから。」
どこまでも謙虚な彼女は慌ててPCを片付けようとする。

「まだ30分以上あるから君はこのまま仕事していたらいいよ。」
と、伝える。

「私も…トーク会観てみたいです。」
目を輝かせて彼女が言う。
だけど、人混みの会場で1人にさせるなんてと、一瞬不安が頭をよぎり俺の心情は穏やかではない。

「医師や教授のただの話し合いだから、面白いものでは無いと思うよ。俺以外はみんな50歳過ぎの叔父さんだし。」
そう言って程よく彼女の関心を逸らしてみたが、彼女の興味は薄れる事なかった。

仕方がなく来賓席の一席を確保して、そこで観てもらう事にする。

前から5列目左の角。暗転になっても舞台から彼女の姿が見える場所を確保して、不安を少しだけ取り除く。

どうしても彼女の事になると過剰に心が乱れてしまう…。自分自身でも少し過保護過ぎやしないかと呆れてしまう程だ。