シンポジウムの会場に着く。
入口近くには開場前から列を作っているようで、耳に届くザワザワと騒つく人々の声もどこか楽しげに聞こえてくる。
来賓者という事で私は如月先生と一緒に関係者出入口から、誰よりも早く会場に入る事が出来た。
スタッフの人達のバタバタとした忙しない足音が聞こえてくる。私もソワソワてした気分になり、先程までの不安な気持ちもどこかに吹き飛んだ。
「建物内なのに太陽の光みたいに明るいですね。」
明暗しか分からない私は会場の明るさに驚く。
「ああ、ここは会場ロビーだけど、天窓があって上から太陽光が降り注でいるんだ。」
如月先生は目の見えない私の為に、先程から会場内を事細かに説明してくれる。
「おはようございます、如月先生。」
女性の明るい声が近付いて来て如月先生が足を止める。私も彼に合わせ足を止め、そっと離れようと誘導のために握っていた手を離す。
それなのに如月先生が慌てたように私の手首を掴んで、
「…離れないで。」
と、耳元でそう言ってくるからドキッとしてしまう。
「おはようございます。昨日はありがとうございました。」
如月先生が淡々とした感じで女性と挨拶を交わす。
「昨日の講演会とても素晴らしかったです。先生のお話し興味深く拝見させて頂きました。私だけじゃなく、きっと観客の皆さんが先生に虜でしたよ。」
テンション高くそう話す女性の目はきっとハート型でキラキラ輝いているだろう。
私も聞いて見たかったなと少しだけ羨ましいく思う。
「そこまででは…
自分はあくまでも佐久間医師の代理ですので。」
称賛の言葉にもトーンを変えずに淡々と返答する如月先生は、女性とは逆にテンションが低い。
普段私と話すときは気さくで穏やかで話しやすい雰囲気なのに、今はピリピリとした空気さえ感じてくる。
病院内でも対応が冷たいと看護師達の噂にはなっていたけど…場の空気が凍りついた気がして、私は俯き大人しくしているしかなかった。
「そちらの方は?」
不意に話しを振られてビクッと思わず体が揺れる。
自己紹介しなくてはと顔を上げると、
「彼女は同僚の松原さんです。」
一歩先に如月先生が紹介してくれる。
「初めまして、松原と申します。
佐久間先生からの依頼で本日は見学に来させて頂きました。今日はよろしくお願い致します。」
失礼がないようになるべく丁寧に頭を下げる。
その間も如月先生は私の手首を握って離さないままで、変な誤解をされないかなと気が気ではない。
「ああ、目がお見えにならないのね。
今日のシンポジウムは貴女にとっても為になると思います。最新の視覚障害者用のアイテムなど展示しています。体験や購入も出来ますので是非ご覧下さい。」
「ありがとうございます。」
「説明案内の者が必要でしたら、こちらでご紹介出来ますよ。本日は案内係を数十名配置させて頂きましたので。」
「そうなんですね。
それは、私のような視覚障害者にとってはとても有難いです。」
今はもう、視覚障害者だと線引きされても傷付く事はない。それが私の立ち位置であり、今日来た役割でもあると重々承知の上だから。
「彼女は大丈夫です。俺が案内しますので。」
間髪入れずに如月先生がそう言うから、
「あら、先生は忙しくいらっしゃるでしょ?
午後のトーク会もご参加して頂く予定ですし、挨拶回りもあるでしょうし。」
「ご心配には及びません。
それではひと足先にブースの見学をさせて頂きますので失礼します。」
如月先生はそうきっぱりと言ってのけ、私の手を引きその場を足早に離れようとするから、私は慌てお辞儀をして引っ張られるようについて行くしかなかった。
入口近くには開場前から列を作っているようで、耳に届くザワザワと騒つく人々の声もどこか楽しげに聞こえてくる。
来賓者という事で私は如月先生と一緒に関係者出入口から、誰よりも早く会場に入る事が出来た。
スタッフの人達のバタバタとした忙しない足音が聞こえてくる。私もソワソワてした気分になり、先程までの不安な気持ちもどこかに吹き飛んだ。
「建物内なのに太陽の光みたいに明るいですね。」
明暗しか分からない私は会場の明るさに驚く。
「ああ、ここは会場ロビーだけど、天窓があって上から太陽光が降り注でいるんだ。」
如月先生は目の見えない私の為に、先程から会場内を事細かに説明してくれる。
「おはようございます、如月先生。」
女性の明るい声が近付いて来て如月先生が足を止める。私も彼に合わせ足を止め、そっと離れようと誘導のために握っていた手を離す。
それなのに如月先生が慌てたように私の手首を掴んで、
「…離れないで。」
と、耳元でそう言ってくるからドキッとしてしまう。
「おはようございます。昨日はありがとうございました。」
如月先生が淡々とした感じで女性と挨拶を交わす。
「昨日の講演会とても素晴らしかったです。先生のお話し興味深く拝見させて頂きました。私だけじゃなく、きっと観客の皆さんが先生に虜でしたよ。」
テンション高くそう話す女性の目はきっとハート型でキラキラ輝いているだろう。
私も聞いて見たかったなと少しだけ羨ましいく思う。
「そこまででは…
自分はあくまでも佐久間医師の代理ですので。」
称賛の言葉にもトーンを変えずに淡々と返答する如月先生は、女性とは逆にテンションが低い。
普段私と話すときは気さくで穏やかで話しやすい雰囲気なのに、今はピリピリとした空気さえ感じてくる。
病院内でも対応が冷たいと看護師達の噂にはなっていたけど…場の空気が凍りついた気がして、私は俯き大人しくしているしかなかった。
「そちらの方は?」
不意に話しを振られてビクッと思わず体が揺れる。
自己紹介しなくてはと顔を上げると、
「彼女は同僚の松原さんです。」
一歩先に如月先生が紹介してくれる。
「初めまして、松原と申します。
佐久間先生からの依頼で本日は見学に来させて頂きました。今日はよろしくお願い致します。」
失礼がないようになるべく丁寧に頭を下げる。
その間も如月先生は私の手首を握って離さないままで、変な誤解をされないかなと気が気ではない。
「ああ、目がお見えにならないのね。
今日のシンポジウムは貴女にとっても為になると思います。最新の視覚障害者用のアイテムなど展示しています。体験や購入も出来ますので是非ご覧下さい。」
「ありがとうございます。」
「説明案内の者が必要でしたら、こちらでご紹介出来ますよ。本日は案内係を数十名配置させて頂きましたので。」
「そうなんですね。
それは、私のような視覚障害者にとってはとても有難いです。」
今はもう、視覚障害者だと線引きされても傷付く事はない。それが私の立ち位置であり、今日来た役割でもあると重々承知の上だから。
「彼女は大丈夫です。俺が案内しますので。」
間髪入れずに如月先生がそう言うから、
「あら、先生は忙しくいらっしゃるでしょ?
午後のトーク会もご参加して頂く予定ですし、挨拶回りもあるでしょうし。」
「ご心配には及びません。
それではひと足先にブースの見学をさせて頂きますので失礼します。」
如月先生はそうきっぱりと言ってのけ、私の手を引きその場を足早に離れようとするから、私は慌てお辞儀をして引っ張られるようについて行くしかなかった。



