君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

次の日から忙しさに追われて、彼女の姿を病院で目にする事も無く、次の日もその次の日も…朝の電車の中や、時折り見かけた食堂の昼時でさえその影を探すが会えなかった。

こんな事なら連絡先の一つでも交換しておけば良かったと溜息が落ちる。

あんな事があった後だから独りで電車に乗れているのだろうか…。仕事場に元気に足を運べているだろうか…。変な輩に絡まれていないか?飯はちゃんと食べてるか…。

心配が積もり積もって胃が痛くなってくる始末だ。

「最近なんかお疲れ気味だね。ちゃんと休めているかい?」
医局の席で独り事務仕事をこなしていると、佐久間医師に声をかけられる。

「お疲れ様です…。何の嫌味ですか?今週末の休みに東京出張を入れて来たのは貴方でしょうが。」
2人だけをいい事に毒を吐く。
 
これというのも、先週突然佐久間医師の代わりに講演を頼まれたのだ。

「悪いねー。どうしても事前に入ってた予定を動かせなくてね…。君しか頼めなかったんだこんな事。ちゃちゃっと話してサッサと帰って来てくれたら良いから。」

「そんな簡単な話しじゃないですよ。持ち分2時間なんて…しかも時間も余裕も無いんです。」

「その代わり、月、火曜日は完全オフをプレゼントするよ。あと1つ。君が今1番欲しいものを送るから、日曜日の朝9時東京駅の改札口でちょっと待っててくれないかい?
きっと元気になる筈だから。」
目配せしてくる佐久間医師を睨み付けながら、深くため息を吐く。

アメリカにいた時に学会で研究成果を話す事はそこそこしてきた。シンポジウムの講演や教授の補佐など、いろいろ機会には恵まれてたが、全て英語でアウェイな状態だったから、開き直って緊張すらもしないでこなせたが。

日本に戻って数ヶ月でまさかのこの依頼…
しかも聞いたのは1週間ほど前で下準備も何も無い。仕方なく以前英語で書いたシナリオを、最新にアレンジして原稿をつくる。

やると決めたらちゃんとしたい。
通常勤務の後、数時間残って自分が作った英文のシナリオを日本に直し、新しい最新の資料も付け足した。

この1週間は家に帰っても、何度となく見返して暗記するほど頭に入れ込んだ。
ああ、もう、流石に疲れた…。