君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

千紗はそんな事など知る由もなく、涼に半ば強引に引っ張らながら、少しの不安を胸に抱えていた。

暗がりの路地を抜けて、訳も分からずどこかのビルに連れ込まれる。そして、エレベーターに乗り上の階へと連れて行かれる。

降りたところは薄暗い場所だった。

足元は絨毯のようでふわふわした感触、薄暗い廊下には所々に足元を照らす照明が、ポツリポツリと灯っているだけ。

ホテル…?だろうか…
千紗は緊張で足を止める。

そんな彼女を涼は逃がさないというように、強引に肩を抱いて歩かせ、突き当たりの場所で足を止める。

ガチャっとドアが開く音。
否応にもドキンドキンと千紗の心臓は音を立てて刻み出す。

背中を押されて中に入ると、パチっと電気をつける音が部屋中に響く。

少しだけ明るくなった世界で千紗はやっと視力を取り戻す。
それでも鮮明には程遠く、目を凝らし辺りを見回す。

「少しは見えるのか?」
その様子を見て、涼はやっと手を離し千紗と向かい合い顔を覗き込む。

千紗は既に借りてきた猫状態…大人しく、こくんと頷き彼を見上げるが…メガネが無い事に気付く。

どんなに目を凝らしても分かるのは輪郭と顔のパーツだけ…

「唇が紫でチアノーゼ状態だ。これ以上身体を冷やすと良くない。」

ドギマギと戸惑う千紗を尻目に、涼はテキパキとバスタオルやバスローブを見つけて来て、手渡し強引に千紗を風呂場に押し込む。

「とりあえず体を温めてくれ。俺はその間に何か、着替えを買いに行ってくる。」
そう言って涼は部屋を飛び出して行ってしまった。

ここはどこ…?

千紗は言われるがままに雨で体に張り付いた服を脱ぎ捨て、風呂場にと恐る恐る足を運ぶ。
…さっきまで死のうとしていた自分と余りにもかけ離れた世界に戸惑う。

お風呂場の電気を手探りで探してパチパチと手当たり次第つけてみる。
すると湯船の底が赤や緑に光り出して、慌ててまたスイッチを探る。普通の電気がやっとついてホッとして湯船に浸かる。

広いお風呂にはTVまで付いている…
ここは普通のホテルじゃない⁉︎
自分が今、なぜここでお風呂に浸かっているのか…?
全く働かなくなった頭では理解が追いつかないでいる。

だけど、ジンジンしていた指先が温かなお湯に溶かされて、やっと感覚を取り戻したのを感じた。