「そういえば、如月先生は角膜移植の名医だとか…。私の眼の主治医が言っていたのを思い出しました…佐久間先生です。」
「ああ…あの人か。あの人が君に俺の話しをしていたんだ…。」
彼女に俺の事を話していたなんて…藤堂涼と同一人物だとは言ってないよな⁉︎と、内心ビクつく。
いずれは言わなければいけないがそれは今では無いと、心臓が嫌な音を立て始める。
「先生が赴任される前に、佐久間先生が自慢の一番弟子だって話されていました。」
当たり障りのない話しでホッとする。
「あの人の弟子になった覚えはないんだけど…。悪口を言われてないなら良しとしよう。」
苦笑いして笑い飛ばすしかない。
佐久間医師とは幼少期からの知り合いで父親以上の間柄だ。
あの人はいい年して、俺と彼女との事をどことなく面白がっているから、昔から大人げなく揶揄ってくる傾向があるのだ。
藤堂涼だという事を勝手に暴かれる前に、口止めしておかなければと改めて決心した。
「凄く手先が器用で、若いのに既に角膜移植を何例もこなしているんですよね。周りの看護師さん達も凄い先生が来たって噂してましたよ。」
赤の他人がどう思おうが気にもしないが、彼女はその事に対してどう思っているのだろうか?
出来れば彼女自身から角膜移植をしたいと言い出してくれたら嬉しいのにと、つい小さな期待をしてしまう。
気になって彼女の動向をつい見つめてしまうが、当の彼女はメロンパンに心を奪われてしまったようで、中から出てくるメロンクリームに驚いている様子だ。
だから俺は待てが出来ず、つい聞いてしまう。
「松原千紗さん…君は角膜移植についてどう思う?君の眼も状態次第ではまた見えるようになると俺は思う。」
彼女は俺の思いなんか知る由もなく、それでもメロンパンをもぐもぐと食べる手を止めない。
そして少しの沈黙の後話し出す。
「私は…誰かの不幸の上で成り立つ幸せなんて欲しくありません。それに、私なんかよりもっと必要としてる方が沢山いると思います。
角膜移植は順番待ちだって聞いた事がありますし、手術費だってかかるでしょうし…」
口角にメロンクリームなんか付けたまま、彼女は控えめに微笑む。
あーなるほど…。
これは、説得し理解を得るまでには時間がかかりそうだな。
なかなか一筋縄にはいか無いだろうことを知り…俺は少し落胆しながら、彼女の唇についたクリームを指で拭き取る。
不意に触れてびっくりした彼女が「えっ⁉︎」と小さく驚きの声をあげるから、何気なさを装って無意識で伸びてしまった指を見つめ、
「クリームついてた。」と返答し、そのクリームがついた指をぺろっと舐める。
慌てて彼女はポケットからハンカチを出して差し出してくるが、大丈夫だと頭をポンポンとまたも無意識に触れてしまう。
驚きを隠せない彼女の瞳が丸くなったのを見て、ハッとして直ぐに手を引っ込める。
彼女から見たら今の俺は最近知り合ったばかりの人に過ぎない。もっと慎重に距離を取らなければいけなかったと小さく反省する。
「一つだけ訂正させてもらえば、角膜移植はその患者の状態や結合率、他にもいろいろな検査を得て、そのドナーに一番合った人が選ばれるんだ。決して順番が全てではないよ。」
「そう…なんですね。
何も知らないのに出過ぎた事を言ってしまいすいませんでした。」
彼女が頭を下げてくるけど、逆に俺が本人の気もないのに、出過ぎた真似をしていると気付く。
「俺の方こそごめん。君の気持ちも知らないで、無神経に聞いたりして。」
彼女が遠慮気味にブンブンと首を横に振る。
「そんな事は…気にかけて頂きありがとうございます。だけど、私は目が見えなくなって日が浅いのでまだいい方なんです。空の色や花の色全ての色を思い出す事が出来ますから。」
薄く微笑む彼女は、今の現実を受け入れ静観しつつ、それでも前を向いて歩む芯の強さを垣間見せる。
「でも、見えない事は日常生活に不憫だろう。どこに行くにも他人の手を借りなければならないし、必要以上に心配される。それに、見えない世界は怖いはずだ。」
彼女の気持ちを尊重しつつ、それでもと一歩踏み込んで聞いてみる。
「もう、慣れましたから。それに目が見えなくて得な事もあるんですよ。今日も、パンを1つおまけしてもらえましたし。」
フフッと笑う君が眩しくて、その心はどこまでもたおやかで強く、5年前とかわらず純粋で綺麗な心のままであり続けているんだなと感動すら覚える。
「そうか、君は強いな。俺だったらきっと耐えられない。」
強くならざるえなかったのだろうと、心がズキンと酷く痛む。
そんな辛い時期を俺は半ば見捨てて彼女から離れてしまったんだと、人知れず自己嫌悪に陥いる。
美味しい筈のメロンパンを口に放り込みながら、どうしようも無く虚しく、情けない気持ちが心を支配する。
そんな時でさえ時刻は刻一刻と止まる事は無く、タイムリミットを迎えてしまう。
束の間の2人の時間はあっと言うまに過ぎて行き、またそれぞれの職場へと戻るしかない。
「ああ…あの人か。あの人が君に俺の話しをしていたんだ…。」
彼女に俺の事を話していたなんて…藤堂涼と同一人物だとは言ってないよな⁉︎と、内心ビクつく。
いずれは言わなければいけないがそれは今では無いと、心臓が嫌な音を立て始める。
「先生が赴任される前に、佐久間先生が自慢の一番弟子だって話されていました。」
当たり障りのない話しでホッとする。
「あの人の弟子になった覚えはないんだけど…。悪口を言われてないなら良しとしよう。」
苦笑いして笑い飛ばすしかない。
佐久間医師とは幼少期からの知り合いで父親以上の間柄だ。
あの人はいい年して、俺と彼女との事をどことなく面白がっているから、昔から大人げなく揶揄ってくる傾向があるのだ。
藤堂涼だという事を勝手に暴かれる前に、口止めしておかなければと改めて決心した。
「凄く手先が器用で、若いのに既に角膜移植を何例もこなしているんですよね。周りの看護師さん達も凄い先生が来たって噂してましたよ。」
赤の他人がどう思おうが気にもしないが、彼女はその事に対してどう思っているのだろうか?
出来れば彼女自身から角膜移植をしたいと言い出してくれたら嬉しいのにと、つい小さな期待をしてしまう。
気になって彼女の動向をつい見つめてしまうが、当の彼女はメロンパンに心を奪われてしまったようで、中から出てくるメロンクリームに驚いている様子だ。
だから俺は待てが出来ず、つい聞いてしまう。
「松原千紗さん…君は角膜移植についてどう思う?君の眼も状態次第ではまた見えるようになると俺は思う。」
彼女は俺の思いなんか知る由もなく、それでもメロンパンをもぐもぐと食べる手を止めない。
そして少しの沈黙の後話し出す。
「私は…誰かの不幸の上で成り立つ幸せなんて欲しくありません。それに、私なんかよりもっと必要としてる方が沢山いると思います。
角膜移植は順番待ちだって聞いた事がありますし、手術費だってかかるでしょうし…」
口角にメロンクリームなんか付けたまま、彼女は控えめに微笑む。
あーなるほど…。
これは、説得し理解を得るまでには時間がかかりそうだな。
なかなか一筋縄にはいか無いだろうことを知り…俺は少し落胆しながら、彼女の唇についたクリームを指で拭き取る。
不意に触れてびっくりした彼女が「えっ⁉︎」と小さく驚きの声をあげるから、何気なさを装って無意識で伸びてしまった指を見つめ、
「クリームついてた。」と返答し、そのクリームがついた指をぺろっと舐める。
慌てて彼女はポケットからハンカチを出して差し出してくるが、大丈夫だと頭をポンポンとまたも無意識に触れてしまう。
驚きを隠せない彼女の瞳が丸くなったのを見て、ハッとして直ぐに手を引っ込める。
彼女から見たら今の俺は最近知り合ったばかりの人に過ぎない。もっと慎重に距離を取らなければいけなかったと小さく反省する。
「一つだけ訂正させてもらえば、角膜移植はその患者の状態や結合率、他にもいろいろな検査を得て、そのドナーに一番合った人が選ばれるんだ。決して順番が全てではないよ。」
「そう…なんですね。
何も知らないのに出過ぎた事を言ってしまいすいませんでした。」
彼女が頭を下げてくるけど、逆に俺が本人の気もないのに、出過ぎた真似をしていると気付く。
「俺の方こそごめん。君の気持ちも知らないで、無神経に聞いたりして。」
彼女が遠慮気味にブンブンと首を横に振る。
「そんな事は…気にかけて頂きありがとうございます。だけど、私は目が見えなくなって日が浅いのでまだいい方なんです。空の色や花の色全ての色を思い出す事が出来ますから。」
薄く微笑む彼女は、今の現実を受け入れ静観しつつ、それでも前を向いて歩む芯の強さを垣間見せる。
「でも、見えない事は日常生活に不憫だろう。どこに行くにも他人の手を借りなければならないし、必要以上に心配される。それに、見えない世界は怖いはずだ。」
彼女の気持ちを尊重しつつ、それでもと一歩踏み込んで聞いてみる。
「もう、慣れましたから。それに目が見えなくて得な事もあるんですよ。今日も、パンを1つおまけしてもらえましたし。」
フフッと笑う君が眩しくて、その心はどこまでもたおやかで強く、5年前とかわらず純粋で綺麗な心のままであり続けているんだなと感動すら覚える。
「そうか、君は強いな。俺だったらきっと耐えられない。」
強くならざるえなかったのだろうと、心がズキンと酷く痛む。
そんな辛い時期を俺は半ば見捨てて彼女から離れてしまったんだと、人知れず自己嫌悪に陥いる。
美味しい筈のメロンパンを口に放り込みながら、どうしようも無く虚しく、情けない気持ちが心を支配する。
そんな時でさえ時刻は刻一刻と止まる事は無く、タイムリミットを迎えてしまう。
束の間の2人の時間はあっと言うまに過ぎて行き、またそれぞれの職場へと戻るしかない。



