彼女が不安気に後ろを振り返ると、食堂入り口にいつも一緒にいる彼女の同僚の姿があった。見えない彼女の目となり付き添ってくれているのだろう。
「君の同僚?俺が声かけてくるからここで待ってて。」
戸惑い気味の彼女を尻目に帰したくない一心で、俺は彼女の同僚の方へ足を向ける。
「すいませんが少し松原さんをお借りしたいのですが。時間には事務局まで連れて行きますので。」
彼女といつも昼食を取っている同僚だと気付く。彼女には以前にも一度、千紗の事で我慢出来ずに声をかけてしまっていた。
『どうぞどうぞ。』と、快く両手でジェスチャーまで付けて、彼女との貴重な時間を譲ってくれた。
「昼休みは何時まで?後で事務局まで送るから。」
腕時計にサッと目を通し残り20分程ある事を確認する。ちなみにこの腕時計は5年前、千紗から貰ったプレゼントだ。
あの頃は、自分にはまだこの時計をつける資格は無いと思い、しばらく大事に箱の中に閉まっていた。医者の免許を取得して、自ら手術の出頭医を任されるようになった時、彼女に誇れる自分になれたと、この時計を身につけた。
あれ日以来、仕事に行く日はいつもつける事が日課になった。
とりあえず、一緒に居たい一心で誘ってしまったが、カウンターの隣りの席に導いても、戸惑ってなかなか座らない彼女に、
「じゃあ、人が少ない中庭に行こう。」
と、他人の目が気になる彼女に配慮して、俺は急いで残りのサンドイッチ口に入れ、アイスコーヒーとメロンバンの紙袋を片手に持ち、誘導しようと彼女の背にそっと触れる。
するとビクッと身体が揺れるから、
「ごめん。誘導しようと思っただけで…。」
慌てて言い訳して、少し彼女と距離をとる。
不愉快だっただろうか…
今朝の一件があったのに、男の俺が気安く触るのは怖いのかもしれないと、配慮が足りなかった事を恥じる。
「すいません。突然だったので…あの、肩をお借りしても?」
その言葉にピンと来て、
「ちょっと触れるね。」
と、声をかけながら彼女の手を取り自分の肩に誘導して、そのまま慎重に歩き出す。
眼科医なのだから、盲者を相手にする事が多いのに、こんな些細な誘導法の知識すら、彼女の前では一瞬で飛んでしまう。それほど浮かれているんだと自覚して、自身にそっと喝を入れた。
「君の同僚?俺が声かけてくるからここで待ってて。」
戸惑い気味の彼女を尻目に帰したくない一心で、俺は彼女の同僚の方へ足を向ける。
「すいませんが少し松原さんをお借りしたいのですが。時間には事務局まで連れて行きますので。」
彼女といつも昼食を取っている同僚だと気付く。彼女には以前にも一度、千紗の事で我慢出来ずに声をかけてしまっていた。
『どうぞどうぞ。』と、快く両手でジェスチャーまで付けて、彼女との貴重な時間を譲ってくれた。
「昼休みは何時まで?後で事務局まで送るから。」
腕時計にサッと目を通し残り20分程ある事を確認する。ちなみにこの腕時計は5年前、千紗から貰ったプレゼントだ。
あの頃は、自分にはまだこの時計をつける資格は無いと思い、しばらく大事に箱の中に閉まっていた。医者の免許を取得して、自ら手術の出頭医を任されるようになった時、彼女に誇れる自分になれたと、この時計を身につけた。
あれ日以来、仕事に行く日はいつもつける事が日課になった。
とりあえず、一緒に居たい一心で誘ってしまったが、カウンターの隣りの席に導いても、戸惑ってなかなか座らない彼女に、
「じゃあ、人が少ない中庭に行こう。」
と、他人の目が気になる彼女に配慮して、俺は急いで残りのサンドイッチ口に入れ、アイスコーヒーとメロンバンの紙袋を片手に持ち、誘導しようと彼女の背にそっと触れる。
するとビクッと身体が揺れるから、
「ごめん。誘導しようと思っただけで…。」
慌てて言い訳して、少し彼女と距離をとる。
不愉快だっただろうか…
今朝の一件があったのに、男の俺が気安く触るのは怖いのかもしれないと、配慮が足りなかった事を恥じる。
「すいません。突然だったので…あの、肩をお借りしても?」
その言葉にピンと来て、
「ちょっと触れるね。」
と、声をかけながら彼女の手を取り自分の肩に誘導して、そのまま慎重に歩き出す。
眼科医なのだから、盲者を相手にする事が多いのに、こんな些細な誘導法の知識すら、彼女の前では一瞬で飛んでしまう。それほど浮かれているんだと自覚して、自身にそっと喝を入れた。



