警察から解放されて、時計を見れば10時半を回っていた。
ホームで2人電車を待ちながら、束の間ベンチで腰を下ろし肩の力を抜く。
「それにしても、このまま何処かへ逃避行でもしたくなるほど良い天気だ。」
そう言う如月先生は私の事を気遣って、あえて明るい声で話しかけてくる。
冷たいペットボトルを渡されて、ありがとうございますと頭を下げる。本来なら私の方がやるべきだったと心がズキズキと痛む。
「あの…長く付き添って頂いてありがとうございました。患者様が待っていると思いますから、先に早く病院へ向かって下さい。私といると足手まといになりますから。」
さっきからずっと私のせいで遅刻させてしまった罪悪感が重たくのしかかる。1分1秒でも早く送り出さなければと気持ちが急く。それなのに…
「少しくらい問題ないですよ。俺がいなくても案外なんとか仕事は回るから。
それよりも、今の状況で君を1人にはさせられない。それに…この場で偶然助ける事が出来た事を俺は幸運に思ってる。
きっと知らないところで君が傷付いていたら、俺はその方が耐えられない。」
…何故そこまで?
見ず知らずの…つい昨日初めて会話をしただけの私に…?
疑問ばかりが頭を巡るけど、それを言葉にする事も出来ないまま、ただただ申し訳なさだけが積もる。
到着した電車にいろいろな感情を抱えながら、如月先生の誘導で乗り込む。
この時間、車内はガラッと空いているようで、2人並びの椅子に余裕を持って座る事が出来た。
ガタンゴトンと走り出す電車に身を委ねる。
「このまま、どこか遠くに行きたいな…。」
また現実逃避して如月先生がそう呟くから、お疲れ気味なのかなと、つい心配になってしまう。
「先生は海外から戻って来たばかりだとお聞きしました。慣れない生活でお疲れ気味なんですね。」
会話力の足りない私はこんな時、気の利いた言葉一つ見つからず歯痒い。
「確かに…向こうと比べると会議や打ち合わせが多くて、若干がんじがらめな働き方だとは思うけど、まぁ元々日本人だから慣れて来たから大丈夫です。それよりも朝の満員電車はさすがに慣れないな。」
「なぜ今日は車じゃなかったんですか?」
わざわざ電車で通う意味が分からないと、つい聞いてしまう。
「君が一緒に乗ってくれる?」
唐突な答えにドキッとして一瞬頭が真っ白になった。な、なんで私⁉︎
返答に戸惑い「えっ…⁈」と発したまま言葉をつぐむ事が出来ないでいると、ハハハッと軽く笑い飛ばす声を聞く。
あっ…揶揄われただけか…と、本気にとってしまった自分をこっ恥ずかしく思い俯く。
「か、揶揄わないでください…どう答えるべきか本気で考えたんですから。」
これには流石に、真っ赤になってぷぅっと頬を膨らませて抗議する。
「揶揄ったつもりはないんだけど、それでも君の可愛い表情が見れたから良しとしよう。」
誰に言うでもなく、如月先生は楽しそうに笑いながらそう言い放った。
可愛い…⁈本当にこの人よく分からない…
今の状況で可愛いと言う言葉を選ぶ事も、こうやって身も知らない私に構ってくることも…。
「君が電車を選ぶ限り俺も電車に乗るよ。…毎朝心配で放っておけない。」
「毎朝⁉︎…もしかしていつも同じ電車に乗っていたんですか?」
「白状するけど…。病院で何度かすれ違って君の事は前から知っていたんだ。1人で電車は大丈夫なのかなって勝手に心配して、勝手に見守っていた。だけど君は俺が手なんて貸さなくても、立派に1人で生活していたよ。」
哀れに思われたのだろうか…目が見えなくて不自由な障害者だって…。
そう思うと、線引されているようで悲しくなってくる。
「障害者は可哀想ではありません。哀れみなんて要りませんから…要らぬお節介はただの迷惑です。」
唇を噛み締めて、つい強い言葉を放ってしまう。
「そう言う気持ちで見ていた訳じゃない…
でも、確かに見ず知らずのヤツに勝手に見守られてても、気持ち悪いだけだし良い気はしないよな…。
申し訳なかった。要らぬお節介だったかもしれない…。」
そう言って如月先生は、私に頭まで下げて謝ってくるから、また戸惑ってしまう。
「いえ…私もつい強く言い過ぎました。すいません。」
「いや。君はそうやって1人で強く生きてきたんだ。誇っていいんだよ。」
如月先生はそれから駅に着くまで一言も発しなかった。
目が見えなくなって障害者となった私は、健常者からみたら守るべき弱い存在になったのだと分かっている。
だけど、それを突っぱねたくなるくらいのプライドだってあるから、素直に他人の好意を受け入れられない自分がいる。
こんなだから、友達少ないんだよね…。
分かっているけど、生まれ持っての性格だから今更どうしようもない…。
また自己嫌悪に陥りながら、また1人貴重な人を無くしたかもしれないとため息を吐く。
ホームで2人電車を待ちながら、束の間ベンチで腰を下ろし肩の力を抜く。
「それにしても、このまま何処かへ逃避行でもしたくなるほど良い天気だ。」
そう言う如月先生は私の事を気遣って、あえて明るい声で話しかけてくる。
冷たいペットボトルを渡されて、ありがとうございますと頭を下げる。本来なら私の方がやるべきだったと心がズキズキと痛む。
「あの…長く付き添って頂いてありがとうございました。患者様が待っていると思いますから、先に早く病院へ向かって下さい。私といると足手まといになりますから。」
さっきからずっと私のせいで遅刻させてしまった罪悪感が重たくのしかかる。1分1秒でも早く送り出さなければと気持ちが急く。それなのに…
「少しくらい問題ないですよ。俺がいなくても案外なんとか仕事は回るから。
それよりも、今の状況で君を1人にはさせられない。それに…この場で偶然助ける事が出来た事を俺は幸運に思ってる。
きっと知らないところで君が傷付いていたら、俺はその方が耐えられない。」
…何故そこまで?
見ず知らずの…つい昨日初めて会話をしただけの私に…?
疑問ばかりが頭を巡るけど、それを言葉にする事も出来ないまま、ただただ申し訳なさだけが積もる。
到着した電車にいろいろな感情を抱えながら、如月先生の誘導で乗り込む。
この時間、車内はガラッと空いているようで、2人並びの椅子に余裕を持って座る事が出来た。
ガタンゴトンと走り出す電車に身を委ねる。
「このまま、どこか遠くに行きたいな…。」
また現実逃避して如月先生がそう呟くから、お疲れ気味なのかなと、つい心配になってしまう。
「先生は海外から戻って来たばかりだとお聞きしました。慣れない生活でお疲れ気味なんですね。」
会話力の足りない私はこんな時、気の利いた言葉一つ見つからず歯痒い。
「確かに…向こうと比べると会議や打ち合わせが多くて、若干がんじがらめな働き方だとは思うけど、まぁ元々日本人だから慣れて来たから大丈夫です。それよりも朝の満員電車はさすがに慣れないな。」
「なぜ今日は車じゃなかったんですか?」
わざわざ電車で通う意味が分からないと、つい聞いてしまう。
「君が一緒に乗ってくれる?」
唐突な答えにドキッとして一瞬頭が真っ白になった。な、なんで私⁉︎
返答に戸惑い「えっ…⁈」と発したまま言葉をつぐむ事が出来ないでいると、ハハハッと軽く笑い飛ばす声を聞く。
あっ…揶揄われただけか…と、本気にとってしまった自分をこっ恥ずかしく思い俯く。
「か、揶揄わないでください…どう答えるべきか本気で考えたんですから。」
これには流石に、真っ赤になってぷぅっと頬を膨らませて抗議する。
「揶揄ったつもりはないんだけど、それでも君の可愛い表情が見れたから良しとしよう。」
誰に言うでもなく、如月先生は楽しそうに笑いながらそう言い放った。
可愛い…⁈本当にこの人よく分からない…
今の状況で可愛いと言う言葉を選ぶ事も、こうやって身も知らない私に構ってくることも…。
「君が電車を選ぶ限り俺も電車に乗るよ。…毎朝心配で放っておけない。」
「毎朝⁉︎…もしかしていつも同じ電車に乗っていたんですか?」
「白状するけど…。病院で何度かすれ違って君の事は前から知っていたんだ。1人で電車は大丈夫なのかなって勝手に心配して、勝手に見守っていた。だけど君は俺が手なんて貸さなくても、立派に1人で生活していたよ。」
哀れに思われたのだろうか…目が見えなくて不自由な障害者だって…。
そう思うと、線引されているようで悲しくなってくる。
「障害者は可哀想ではありません。哀れみなんて要りませんから…要らぬお節介はただの迷惑です。」
唇を噛み締めて、つい強い言葉を放ってしまう。
「そう言う気持ちで見ていた訳じゃない…
でも、確かに見ず知らずのヤツに勝手に見守られてても、気持ち悪いだけだし良い気はしないよな…。
申し訳なかった。要らぬお節介だったかもしれない…。」
そう言って如月先生は、私に頭まで下げて謝ってくるから、また戸惑ってしまう。
「いえ…私もつい強く言い過ぎました。すいません。」
「いや。君はそうやって1人で強く生きてきたんだ。誇っていいんだよ。」
如月先生はそれから駅に着くまで一言も発しなかった。
目が見えなくなって障害者となった私は、健常者からみたら守るべき弱い存在になったのだと分かっている。
だけど、それを突っぱねたくなるくらいのプライドだってあるから、素直に他人の好意を受け入れられない自分がいる。
こんなだから、友達少ないんだよね…。
分かっているけど、生まれ持っての性格だから今更どうしようもない…。
また自己嫌悪に陥りながら、また1人貴重な人を無くしたかもしれないとため息を吐く。



