君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

本来降りるべき駅の一つ前で下車した私達は、駅員の誘導で交番へと駆け込む。

きっと定時には間に合わない…如月先生に迷惑をかけてしまったと、1人打ちひしがれながら、小さな交番の片隅にある長椅子に座る。

「今のうちに病院に遅れる旨を連絡した方が良いと思います。話し辛かったら俺が上手く説明するから。」
如月先生が私なんかを気遣って、そう提案してくれる。

「いえ…大丈夫です。自分で連絡しますから、それよりも先生が病院に遅れてしまうと、患者様に迷惑が…先に行って下さい。」

きっとこのままいったら午前中の診察に間に合わない。そうなると予約で来られる患者様を待たせる事になってしまうから、それを恐れて如月先生の背中を押す。

「俺の事は気にしなくて大丈夫です。こんな日の為に控えの医師がいるんだから。今回は堂々とその制度を使わせてもらう事にします。」
そう言って、止める間もなく電話をかけてしまう。

私のせいで…また迷惑をかけてしまったと打ちひしがれる。

「如月です。ちょっと体調が優れない方と遭遇しまして、放っては置けないので介抱してから出勤します。申し訳ないんですが、担当患者様にはそのように伝えてもらって、対応をお願いします。」
テキパキと指示を出し、今出来る最善を尽くしたいと電話相手に伝えている。

私も上司に報告しなくちゃと、未だ震える指でスマホをタップする。

隠しても仕方がない…正直に話そう。
私の中ではとっくに腹が決まり、下唇を噛みながら今あった一部始終を上司に話す。

『それは…朝から大変でしたね。こちらは何とかしますから。
大丈夫ですか?有休にしてくれても良いですし、仕事の事は気にしないで、気持ちの方を優先してくださいね。』

そう気遣われてしまうほど、私はよほど動揺を隠せて無いのだろう…

「…大丈夫です。終わり次第直ぐ行きます。」
気丈な態度でそう伝えスマホを切る。

心配や同情は無用だ。1人で生きていく中でこんな事は些細な事でしかないのだから…自分自身にそう言いくるめ、気持ちをどうにか持ち上げる。

「大丈夫?あまり無理しない方が良いと思います。心は傷ついている筈だから、今日はこのまま休んだって誰も君を咎めないよ。」
隣から心配そうな如月先生の声、それと同時に手をぎゅっと握られる。

急な事に慣れてない私はビクッと肩を揺らすと、
「あっ、ごめん…つい。」
と、パッと手を離されてしまう。

少しの寂しさを感じながら、
「ご心配をおかけしてすいません…。私は大丈夫ですので、先生は先に病院に行って下さい。これ以上ご迷惑は…」

「俺が…俺が君の側にいたいんだ。」
私の言葉を遮るようにそう言われて、これ以上は何も言えなくなる。

「このお礼は…必ずさせて下さい。」
なぜこれほどまでに私の事を気にかけてくれるのか、如月先生が分からなくて…戸惑いしかない。

それから1時間ほど事情聴取があり、後は引き続き調査を行うという事で、いくつかの書類に記入して淡々と事務処理を繰り返し、取調べは終わった。

如月先生は終始私のサポート役に徹してくれて、書類の記入や事情聴取にも率先して私を助けてくれた。

「犯人ですが、前科があるようで出向猶予期間でした。今回の事で実刑になるかと思われます。なので安心して過ごして頂ければと思います。」
警察からそう話しを聞いて、私はひとまず安堵した。