次の日もいつもと変わらない日常で、海岸沿いを白杖片手に歩いて最寄りの駅に到着する。
電車で片道20分。
朝の通勤ラッシュに駅員さんの手を借りて乗り込むと、真夏の暑さも相まって、クーラーが効いているはずの車内もムッと熱気が漂っていた。
電車に乗った当初、駅員さんは当たり前のようにシルバーシートに誘導してくれたけれど、大丈夫ですと断って以来、出入口付近の手摺りをいつも私の立ち位置に指定してくれた。
そこは丁度私が降りる駅まで開かない出入口だから人波に流されず、それでいて降りる時は降り口側になる、とても便利な場所だった。
いつも通り駅員さんの誘導で、出入口付近の手摺りを無事に掴む事が出来て安堵する。目が見えないというのは意外と厄介で、平行感覚をも時として奪われる。
急ブレーキや急停止の揺れには耐えられず、今の私は手摺りが無ければ転んでしまうくらい不安定だ。
何とか人混みを掻き分け乗り込んで、列車はガタンゴトンと動き出す。
今でさえ隣にいる人の息づかいが分かるくらいの近さだ。病院前駅に到着するまで5駅ほど経由するから、最終的にはおしくらまんじゅう程の混みぐらいになる。
車両には冷房も扇風機も付いているのに、人々の熱気でじんわり額に汗が滲む。汗拭き用のタオルをバックから取り出して、ポンポンと軽く額を抑える。
後20分この状態は続くだろう。
少しの息苦しさを感じて小さく深呼吸をする。いつもの事だから仕方がないと割り切って、残り片道15分を耐え忍ぶ。
病院近くの駅まで残り3駅を数えるくらいになり、学校へ向かう学生達が一気に下車して、圧迫が少し解消されホッと肩を撫で下ろす。
そのタイミングで乗り込んで来た乗客が、やたらと私と距離感が近くて…不快感を覚える。
他の場所へと逃げたいけれど、電車は既に走り出しカーブを曲がり始めるから、バランスを上手く取れない私は手摺りにしがみつき耐えるしかなかった。
…お尻触れられてる?
…それとも、カバンが当たってるだけ?
バクバクと心臓が嫌な音を立て始めるけれど、人影しか認識出来ない私にはそれが何か確かめる術がない。
電車の揺れに合わせて当たる感触に怯え、ひたすら到着するまでの数分を耐え続けなければならない。
冷や汗がスーッと額を流れ落ちる。
「お前…何してるんだ!!」
突然左側から声が聞こえ、私はビクッとして硬直してしまう。
「イッイテテテテ…」
と、私の後方にいた不審な男が声を上げる。
「彼女にワザと触れていただろ!!」
ドンッと扉にぶつかる音…誰か分からないけれど、今の私にはヒーロー参上くらいに有り難かった。
「…大丈夫だったか⁉︎」
えっ⁉︎…この声…もしかして?
「如月です。どこも何ともないか⁉︎
…怖かったよな。もっと早く気付けていたら…ごめん。」
そう言って何の落ち度も無いはずの、如月先生が謝ってくる。なぜ?車持ち先生がわざわざ電車なんて⁈
「…あ、ありがとう…ございました。」
震えてる声で何とか言葉を絞り出す。
彼は片手で不審な男を取り押えたままのようだ。時々『放せよ!』と、凄んだ声が聞こえてくる。
それでもそんな事はお構いなしに、
「…側にいたら、決して触れさせなかったのに…。」
如月先生はここにいる誰よりも悔しがるように、ため息を吐く。
「だ、大丈夫です。…触られたのか、ただ当たったのか…分からなくて…。」
「この男警察に差し出すから、次の駅で一緒に降りてもらっていいかな?」
直ぐに冷静を取り戻した如月先生は、決して男が私に近付かないように気遣い、自ら盾になり続けてくれた。
なぜいつもこの人は私のピンチの時に現れるのだろう…。
安堵と共に申し訳なさとやるせ無さ、いろいろな感情が溢れ出し心が忙しく騒ついた。
電車で片道20分。
朝の通勤ラッシュに駅員さんの手を借りて乗り込むと、真夏の暑さも相まって、クーラーが効いているはずの車内もムッと熱気が漂っていた。
電車に乗った当初、駅員さんは当たり前のようにシルバーシートに誘導してくれたけれど、大丈夫ですと断って以来、出入口付近の手摺りをいつも私の立ち位置に指定してくれた。
そこは丁度私が降りる駅まで開かない出入口だから人波に流されず、それでいて降りる時は降り口側になる、とても便利な場所だった。
いつも通り駅員さんの誘導で、出入口付近の手摺りを無事に掴む事が出来て安堵する。目が見えないというのは意外と厄介で、平行感覚をも時として奪われる。
急ブレーキや急停止の揺れには耐えられず、今の私は手摺りが無ければ転んでしまうくらい不安定だ。
何とか人混みを掻き分け乗り込んで、列車はガタンゴトンと動き出す。
今でさえ隣にいる人の息づかいが分かるくらいの近さだ。病院前駅に到着するまで5駅ほど経由するから、最終的にはおしくらまんじゅう程の混みぐらいになる。
車両には冷房も扇風機も付いているのに、人々の熱気でじんわり額に汗が滲む。汗拭き用のタオルをバックから取り出して、ポンポンと軽く額を抑える。
後20分この状態は続くだろう。
少しの息苦しさを感じて小さく深呼吸をする。いつもの事だから仕方がないと割り切って、残り片道15分を耐え忍ぶ。
病院近くの駅まで残り3駅を数えるくらいになり、学校へ向かう学生達が一気に下車して、圧迫が少し解消されホッと肩を撫で下ろす。
そのタイミングで乗り込んで来た乗客が、やたらと私と距離感が近くて…不快感を覚える。
他の場所へと逃げたいけれど、電車は既に走り出しカーブを曲がり始めるから、バランスを上手く取れない私は手摺りにしがみつき耐えるしかなかった。
…お尻触れられてる?
…それとも、カバンが当たってるだけ?
バクバクと心臓が嫌な音を立て始めるけれど、人影しか認識出来ない私にはそれが何か確かめる術がない。
電車の揺れに合わせて当たる感触に怯え、ひたすら到着するまでの数分を耐え続けなければならない。
冷や汗がスーッと額を流れ落ちる。
「お前…何してるんだ!!」
突然左側から声が聞こえ、私はビクッとして硬直してしまう。
「イッイテテテテ…」
と、私の後方にいた不審な男が声を上げる。
「彼女にワザと触れていただろ!!」
ドンッと扉にぶつかる音…誰か分からないけれど、今の私にはヒーロー参上くらいに有り難かった。
「…大丈夫だったか⁉︎」
えっ⁉︎…この声…もしかして?
「如月です。どこも何ともないか⁉︎
…怖かったよな。もっと早く気付けていたら…ごめん。」
そう言って何の落ち度も無いはずの、如月先生が謝ってくる。なぜ?車持ち先生がわざわざ電車なんて⁈
「…あ、ありがとう…ございました。」
震えてる声で何とか言葉を絞り出す。
彼は片手で不審な男を取り押えたままのようだ。時々『放せよ!』と、凄んだ声が聞こえてくる。
それでもそんな事はお構いなしに、
「…側にいたら、決して触れさせなかったのに…。」
如月先生はここにいる誰よりも悔しがるように、ため息を吐く。
「だ、大丈夫です。…触られたのか、ただ当たったのか…分からなくて…。」
「この男警察に差し出すから、次の駅で一緒に降りてもらっていいかな?」
直ぐに冷静を取り戻した如月先生は、決して男が私に近付かないように気遣い、自ら盾になり続けてくれた。
なぜいつもこの人は私のピンチの時に現れるのだろう…。
安堵と共に申し訳なさとやるせ無さ、いろいろな感情が溢れ出し心が忙しく騒ついた。



