君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

放課後、夕方になり雲がどんよりとかかり、ぐずついた空模様となる。
千紗はトボトボと家に向かって、いつもの通学路を歩いて帰っていた。

そして遮断機の前に辿り着く…

カンカンカンカン…

気が付くと赤く点滅する遮断機の灯りをぼぉっと見つめ続けていた。
既に辺りは暗くなり、暗闇では全く用を為さない千紗の目は、赤い灯りがぼんやりと滲んだ絵の具の様に見えるだけだ。

そしてまた、電車がガタンゴトンと通り過ぎて行く。

シトシトと降り出した雨は、制服の色が変わるくらい濡れ始めていた。

次こそは…
既にここを何往復した事だろう…。
手を握り締め遮断機が鳴るのを待つ。

死を目前にすると人は何を思うのだろう。

千紗の頭の中は、懐かしい楽しかった思い出が走馬灯のように蘇っていた。

「ごめんね…お母さん…。」
そう呟き、再度カンカンカンカン…と鳴り始めた遮断機の向こう側に足を一歩踏み入れる。

赤い点滅が水溜りに反射して、キラキラと輝いて見える。騒つく人々の声も降りしきる雨の音にかき消され、千紗の心を幾らか軽くしてくれた。

カンカンカンカン…

けたたましく鳴り響く遮断機の音だけが、警告音のように心臓に突き刺さる。

大丈夫…痛いのは一瞬…
自分に言い聞かせて無理矢理、線路内へと足を動かす。

「危ないっ!!」

電車の音が近づいて来る瞬間に、急にグッと強い力に引き寄せられて、フワッと身体が宙に浮く様な感覚を覚える。