君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

「すいません…。もしかして…湘南病院で働いていらっしゃいませんか?」
隣の男性がまた、話しかけてくる。

「えっ、はい…。どこかでお会いしましたか?目がよく見えないので気付かなくて…すいません。」
患者さんだといけないと、粗相がないように言葉を選ぶ。

「あっ、決して怪しい者では…。眼科医をしてます如月と申します。この近所に住んでまして、たまたま今日は待機勤務なんです。」

待機勤務とは緊急時に呼び出しがかかる事もある休日で、うちの病院の場合は手当が付くらしいけど…。

お医者様は休みの日でもちゃんと休めなくて大変だなぁと少し同情してしまう。

「それは…お疲れ様です。
…病院から離れた場所は不便じゃないですか?」
医師のほとんどが病院近くに住んでいると聞いた事があるから不思議に思い、つい聞いてしまう。

「サーフィンが趣味なんです。だから海の近くが良くて、無理言って了承してもらっています。そういうあなたも通うのが大変では?」

まさか聞き返されるとは思わず、私は少し動揺しつつ、
「いつも冒険してるみたいな気持ちでいられるので、楽しいですよ。」
と、答える。この気持ちは本当に本心で、白杖1つで歩く道は、いつもドキドキハラハラして、それは毎日の良いスパイスになっている。

「良いですね、その考え方。
僕も嫌いじゃないですが、でも夜道は危険だらけだ…気を付けて下さい。」
見ず知らずの医師にまで心配させてしまうほど、私は頼りなく見えるのかな…
と、若干の自己嫌悪に陥りながら、

「そうですね…。お気遣いありがとうございます。」
と丁寧にお礼を言う。

「もしかして…あなたが病院の点字版のフロアマップ作った方ですか?」
仕事を見られていたのか、はたまた眼科医だから興味を持ったのか分からないけれど、挨拶程度で終わるはずの会話が彼によってどんどん紡がれていく。

「そう、ですが…。何が不都合でもありましたか?」
間違いでもあったのかと、一気に不安になってくる。
なんせ点字翻訳をチェックし修正してくれる人が病院にはいない為、私1人で何度となくチェックし修正をしている現状だ。
だからどんなに気を付けても間違いがあるかもしれないと、いつも不安は残っていて気になってしまう。

「いえいえ、患者さんから評判が良くて、分かりやすくて面白いって言葉をよくいただくので、もしかしたらと思って。
3歩歩いて左って書いてあるんですよね?まるでテーマパークに来たみたいで、みなさん楽しいらしいですよ。」
そう言って、彼はハハッと爽やかに笑い声をあげる。

「ええ…確かに、私自身が歩いた感じで書いたので…。」
まさかのお褒めの言葉をもらい、なんだかちょっと恥ずかしい。

「大好評です。自分も点字が読めたら良かったと、損した気分になりました。」
そう言う彼の声は嬉しそうに弾んで聞こえた。