君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

夕方、仕事終わりに麻里奈ちゃんとなぜか前島さんも一緒に、最近出来たというオシャレな居酒屋に足を運ぶ。

「ここ、俺も気になってたんだよねー。2人も初めて?」
席に着くなりテンション高めな前島さんが、ソワソワと聞いてくる。

「初めてですよ。だから千紗先輩と女子会したかったのに…何で前島先輩がついて来るんですか?」
先程から腑に落ちないようで、麻里奈ちゃんが前島さんを邪険にしている。私としてはずっと断り続けた彼からの誘いを、どんな形でもやっと叶えてあげられた気がして、内心ホッとしていた。

それぞれがそれぞれの思いを抱きながら、とりあえず乾杯をする。もちろん私は外でお酒を飲めないから、ノンアルコールのカクテル風ドリンクだ。

「いやーしかし、今日のビールは格段上手い。」
前島さんは何かにつけて上手いを連呼し、先程からハイテンションでお酒を口に運んでいる。

「そう言えば昼休みの話しなんですけど、あの後いろいろあって…。」
麻里奈ちゃんが前島さんを無視して話し出す。

「昼休み、何があったの?」
私もチビチビとノンアルコールのカクテルを飲みながら、麻里奈ちゃんの話に耳を傾ける。

「あの、イケメンの如月先生が私に話しかけてきたんです。『先程の方、もしかして目が…』って千紗先輩の事を。
『眼科が専門なのでちょっと気になって…』って言われたので、ちょっとだけお話ししちゃいました。本当、間近に見てもかっこよかったです。」
興奮冷めやらぬと言った様子で、麻里奈ちゃんが話し始める。

「その後気付くと椎名さんが隣に来ていて、すっごい顔で私を睨みながら『如月先生、私との昼食の話しを無碍にしながら、こんなところで食べてらっしゃるの?』って言って来て…。」

椎名さんは確か…
理事長の娘で秘書のような事をしてる人だ。カツカツといつもヒールの音を響かせて歩いている。私とは別に接点はないけれど、男漁りしに病院に来てるって…看護師さんの噂話しで聞いた。

「本当、イケメン医師となると大変ですね。既に目を付けられちゃったみたいです。如月先生…。」
麻里奈ちゃんも可哀想にという様に、如月先生の同情をする。

「如月先生は『ごめんね。』ってサッと席を離れて行ってしまいましたけど、椎名さんが付きまとってて…お昼ものんびり取れなくて可哀想でした。」

「イケメンってだけで羨ましいよな。囃し立てられてさ。」
なぜか不貞腐れたように、前島さんが話に割って入る。

「私は千紗先輩と話してるんです。前島先輩は1人で飲んでてください。」
麻里奈ちゃんが前島さんに抗議して、少しおかしな小競り合いになる。
私はそれを笑いながら聞いていた。

「とりあえず、千紗先輩の事気になってるみたいですよ、如月先生は。」
他人事のように聞いていた私に、麻里奈ちゃんが急に振ってくるから、
「えっ⁉︎私?」
と、枝豆を食べる手を止め驚く。

「そうですよ!それを伝えなくちゃって、話したかったのに前島さんが邪魔して来るから…。」
なんの接点もない私に興味を持つなんて事はあり得ない。しかも視覚障害者の私になんて…

「私が視覚障害者だから職業柄気になっただけなんじゃない?」
私は素っ気なくそう答える。

「それだけじゃないですって!だって、先輩の事目で追ってたの私見ましたし、先輩は綺麗なんですからもっと自信持って下さい。」
なぜか熱弁する麻里奈ちゃん。

それに便乗して前島さんが、
「マジで…そんなイケメン医師、やめた方がいいからね。危険な匂いしかしない。」
と、なぜだか必死に私に訴えてくる。

「親しくなる事なんて有り得ませんから大丈夫ですよ。かかりつけ医だって佐久間先生から変えるつもりないですし、この先接点なんてありませんよ。」
私にはまったく関係無いと2人の真剣な様子を他人事のように、フフフッと笑い飛ばした。

「本気で気を付けて。何かあったら必ず俺に言ってね。マジで。」
前島さんがまだ必死に言ってくるから、なぜだか麻里奈ちゃんが面白くないらしく、

「なんで前島さんに言わなきゃいけないんですか?千紗先輩の自由です。親でも無いんだからちょっとキモいです。」
と、闘志むき出しにして歯向かい、前島さんの心を滅多刺しにしているようだ。

可愛い雰囲気と容姿を持つらしい麻里奈ちゃんなのだけど、実は思った事を口にしてしまう辛辣さを兼ね備えている。

彼女にとってそれは外部からの敵に対する防御本能なのかもしれない。そんな事を思いながら、2人の小競り合いを楽しく聞いていた。