「さっきの電話、危うくクレームになるところでした。千紗先輩フォローありがとうございます。」
麻里奈ちゃんが私の手を取り導き、社員食堂へと連れて行ってくれる。
今は13時。
この時間帯の社員食堂はガラガラで、交代時間が不規則な医師や看護師が数名、遅い昼食を取っているだけだと麻里奈ちゃんが見えない私に教えてくれた。
「せっかくだから窓際の明るい席に行きましょうか。」
麻里奈ちゃんはA定食、私はきつねうどんを注文し、一緒に運んでくれる彼女にお礼を言いながら、肩に手を置き席まで連れて行ってもらう。
こうやって人の手を借りなければ、何も出来なくなってしまった私は、障害者手帳を持つ正真正銘の視覚障害者になった。
いろいろな事を諦めたけれど、それでも生きることだけは諦めなかった。涼さんに助けられた命を粗末に扱う事は二度とない。
自分の人生を悲観する度、この現実に打ちひしがれる度、彼の事を思い出してなんとか堪えてここにいる。
視力を失ってから不憫な事は沢山あるけれど、たまに触れる周囲の人からの無償な親切に、生きる力をもらっている。
「先輩はここに座って下さいね。私は向かい側に座りますから。」
実は彼女には視覚障害者の弟さんがいるらしく、当たり前のように自然な感じに寄り添ってくれる。こんなに良い子はそうそういないと感心する。
「ありがとう。」
2人でいただきますをして食べ始める。
「千紗先輩、今夜お時間ありますか?もしお暇でしたら仕事帰りに食べに行きませんか?」
「…私なんかで良ければ。」
今まで仕事帰りに外食するなんて機会が無かった私は、気恥ずかしくて照れ笑いをしてしまう。
「千紗先輩だから誘うんです。最近出来た居酒屋さんなんですけど、凄くオシャレで気になってるんです。日頃のお礼も兼ねて行きましょ。」
仕事帰りに同僚と居酒屋…まず私には望めないシチュエーションだったから、素直に嬉しくて気持ちが弾む。
私がそんな浮立つ気持ちを隠しながら、きつねうどんをひたすら口に運んでいると、
「あっ…!」
と、麻里奈ちゃんが小さく叫ぶ。
「どうしたの?」
不思議に思って何気なく聞くと、
「先週から眼科にイケメンの医師が来たって噂を聞いていたんですけど、多分あの人だと思います。背が高くてモデルさんみたい…でも、黒縁眼鏡がちょっと勿体無いかも…。」
麻里奈ちゃんが小さな声で捲し立てる。
そういうと、周辺からにわかにざわつく声が聞こえてくる。そんなにかっこいいんだ…。まぁ、私には関係ないけど…。
盲学校に通い始めてからとっくに恋や恋愛については切り捨てた。私には関係ない世界。第一イケメンなのかどうかなんて、見えない私にはなんの意味もない。
私は1人無関心に目の前のうどんをひたすら啜る。
「うわっ…こっちに歩いてきます。」
麻里奈ちゃんの浮立つ声を気にもとめず、ただただ可愛いいなと思いつい、フフッと笑う。
足音がコツコツと近付いてくる音が聞こえたかと思うと、フワッと横を誰かが通る風を感じる。
…なんだか良い香り…
香水なのか分からないけれど爽やかな香りがほのかに漂う。
「あっ…後ろの窓際の席に…。」
麻里奈ちゃんの解説を頭の片隅に聞きながら、時計の針に触ると休憩に入って既に30分を過ぎていた。
「ごめんね先に行くよ。ちょっとコンビニに用事があって、麻里奈ちゃんはゆっくり食べてね。」
水道料金の振り込みを思い出し、私は慌てて最後のうどんを啜る。
「あっ、はい。ついて行きましょうか?」
と、麻里奈ちゃんは気を利かせて言うけれど、
「大丈夫。病院内は慣れてる場所だから。」
私はサッと立ち上がりその場を後にした。
麻里奈ちゃんが私の手を取り導き、社員食堂へと連れて行ってくれる。
今は13時。
この時間帯の社員食堂はガラガラで、交代時間が不規則な医師や看護師が数名、遅い昼食を取っているだけだと麻里奈ちゃんが見えない私に教えてくれた。
「せっかくだから窓際の明るい席に行きましょうか。」
麻里奈ちゃんはA定食、私はきつねうどんを注文し、一緒に運んでくれる彼女にお礼を言いながら、肩に手を置き席まで連れて行ってもらう。
こうやって人の手を借りなければ、何も出来なくなってしまった私は、障害者手帳を持つ正真正銘の視覚障害者になった。
いろいろな事を諦めたけれど、それでも生きることだけは諦めなかった。涼さんに助けられた命を粗末に扱う事は二度とない。
自分の人生を悲観する度、この現実に打ちひしがれる度、彼の事を思い出してなんとか堪えてここにいる。
視力を失ってから不憫な事は沢山あるけれど、たまに触れる周囲の人からの無償な親切に、生きる力をもらっている。
「先輩はここに座って下さいね。私は向かい側に座りますから。」
実は彼女には視覚障害者の弟さんがいるらしく、当たり前のように自然な感じに寄り添ってくれる。こんなに良い子はそうそういないと感心する。
「ありがとう。」
2人でいただきますをして食べ始める。
「千紗先輩、今夜お時間ありますか?もしお暇でしたら仕事帰りに食べに行きませんか?」
「…私なんかで良ければ。」
今まで仕事帰りに外食するなんて機会が無かった私は、気恥ずかしくて照れ笑いをしてしまう。
「千紗先輩だから誘うんです。最近出来た居酒屋さんなんですけど、凄くオシャレで気になってるんです。日頃のお礼も兼ねて行きましょ。」
仕事帰りに同僚と居酒屋…まず私には望めないシチュエーションだったから、素直に嬉しくて気持ちが弾む。
私がそんな浮立つ気持ちを隠しながら、きつねうどんをひたすら口に運んでいると、
「あっ…!」
と、麻里奈ちゃんが小さく叫ぶ。
「どうしたの?」
不思議に思って何気なく聞くと、
「先週から眼科にイケメンの医師が来たって噂を聞いていたんですけど、多分あの人だと思います。背が高くてモデルさんみたい…でも、黒縁眼鏡がちょっと勿体無いかも…。」
麻里奈ちゃんが小さな声で捲し立てる。
そういうと、周辺からにわかにざわつく声が聞こえてくる。そんなにかっこいいんだ…。まぁ、私には関係ないけど…。
盲学校に通い始めてからとっくに恋や恋愛については切り捨てた。私には関係ない世界。第一イケメンなのかどうかなんて、見えない私にはなんの意味もない。
私は1人無関心に目の前のうどんをひたすら啜る。
「うわっ…こっちに歩いてきます。」
麻里奈ちゃんの浮立つ声を気にもとめず、ただただ可愛いいなと思いつい、フフッと笑う。
足音がコツコツと近付いてくる音が聞こえたかと思うと、フワッと横を誰かが通る風を感じる。
…なんだか良い香り…
香水なのか分からないけれど爽やかな香りがほのかに漂う。
「あっ…後ろの窓際の席に…。」
麻里奈ちゃんの解説を頭の片隅に聞きながら、時計の針に触ると休憩に入って既に30分を過ぎていた。
「ごめんね先に行くよ。ちょっとコンビニに用事があって、麻里奈ちゃんはゆっくり食べてね。」
水道料金の振り込みを思い出し、私は慌てて最後のうどんを啜る。
「あっ、はい。ついて行きましょうか?」
と、麻里奈ちゃんは気を利かせて言うけれど、
「大丈夫。病院内は慣れてる場所だから。」
私はサッと立ち上がりその場を後にした。



