君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

そんな事を考えながらたどり着いた病院の仕事場で、いつものように与えられた机に向かいヘットフォンとインカムを付ける。

目の前の机には音声ガイダンス付きのパソコンが一台。電源ボタンを押して、就業時間前のスタンバイに入っていると、

「おはよう、千紗ちゃん。今日は暑いね。」
隣から聞き慣れた声を聞き、そちらの方に顔を向け会釈する。

「おはようございます、前島さん。暑いですね。」
彼は同じ職場で働く健常者で、いつも見えない私の手助けをしてくれる優しい先輩だ。

「今日は何時まで?帰りも暑いだろうし車で送るよ。」

「ありがとうございます。でも、今日はスーパーで買い物もしたいので大丈夫です。」
そう断りを入れるのだけど、

「じゃあ、俺も一緒に買い物付き合うよ?なんならついでに夕飯もどっかで食べていこうか。」
いつもそんな風に多少の強引さで、私の意思とは別の方向に流され気味だ。

「いえ、それは申し訳ないので…。」
言葉を濁しつつ何とか逃げる。そのタイミングで就業のチャイムが鳴り、ホッとして仕事へ入る。

前島さんはきっと見えない私に同情し、何かとお節介を焼いてくれているだけ。そう思い、気持ちを切り替えて受話器を取る。

私の仕事は電話を使っての窓口案内業務だ。
電話での健診予約や、外部からの営業に対しての対応、問い合わせに苦情なんかも一手に担う。

大きな病院の電話はいつだって鳴りっぱなしで、3人体制でもいっぱいいっぱいの仕事量だ。

パソコンを使っての録音と記録を残しつつの電話応対だから、盲者の私にとっては慣れるまで大変な業務だった。この仕事を始めて3年目、やっと上手くこなせるようになって来た。

「ねぇねぇ。千紗先輩、今日はお昼同じタイミングですね。よろしくお願いします。」

3人のうちもう1人は私より5歳年下の、今年入って来た新入社員の松尾麻里奈ちゃん。新人研修を終えて、今年の7月に配属が決まったばかりだ。

キラキラとした初々しさと、明るさを持ち寄った可愛らしい子、らしい…
人の顔を認識出来ない程の視力になった私には、麻里奈ちゃんの顔は分からない。

だけど、どちらかというとスンとしている私より愛嬌があって、この仕事に向いていると思う。

「後、30分頑張ろ。」
電話の間に何とか言葉を交わし、時間交代まで3人で電話を回し終えた。

いつも順番で1人お昼当番を残し、2人で昼食を取っている。それでも12時台は電話が多い為、他の職員よりは1時間遅く昼休みにはいる。