君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

(藤堂side)

今日一日一緒にいる事で千紗という人間が分かってきた。言葉数は少なくても、目は口程にもの言うタイプだ。素直な性格は顔に出る。

表情を見ていれば喜怒哀楽が手に取るように分かり、どんな表情も可愛らしかった。だけど、思っていたより芯は強くて揺るがない。

俺の助けなんていらなかったのかも知れない…

治験の話を聞いた時、千紗の病状を思って参加するべきだと直ぐに動き始めた。使えるツテはなり振り構わず使った。

それは、いろいろな確執があり疎遠になっていた父にもだ。

高校を卒業し大学に入ってからこの2年、一度も実家には帰っていない。親からの仕送りも出来るだけ手を付けず、家庭教師のバイト代のみで毎日の生活費を賄っているくらい徹底していた。

実家である藤堂家は代々病院を営み、地方では指折りの大病院だった。父は祖父の跡を継ぎ理事長を務めていた。いつか家を継がなければならない。その事が暗黙の了解のように、俺の周りには常にまとわりついた。

俺にとってそれは大きな重荷だった。
自由に生きたい。やりたい事をやり、したい事をして、行きたい場所に行きたい。

希望はただそれだけだ。なのに自分にはそれが叶わない夢だった。

千紗に会ったのはそんなジレンマを抱え、思い悩んでいた頃だった。
放っておいたら消えてしまいそうな危うさを抱えた彼女を、なんとかして立ち直させたかった。

始めはそんな人道支援の気持ちだった。

毎日、メールをしてたまに電話する。彼女が生きている事に安堵して、ホッとする。
そんな日々を過ごしているうちに、何が自分にも出来る事がないかと思い立つ。

それから1ヶ月、手探りで彼女の病気について学び、最新の医療をと出来る限りの手を尽くす。

そして、この最先端の新薬の治験に辿り着いた。

かつて父の病院で働いていた名医に会い、頭を下げてお願いした。

佐久間医師は千紗の病状の進行の速さに懸念を抱いていた。俺自身は治験に参加してみる価値はある。と、思っていた。

だが、いざ病院に連れて行ったら、彼女にとっては、程の良いお節介なのではと思い始めた。俺がやった事は親切の押し売りで、ただの自己満足に過ぎないのではと…。

目の前でオムライスを美味しそうに頬張る彼女を見つめ、やっぱりオムライスが食べたかったんだと確信する。 

食べたい物すら他人に流されてしまう彼女は、新薬の事だって周りの意見に簡単に流されてしまうだろう。

彼女の本心を引き出すのはなかなかに大変そうだと、人知れずため息を吐く。

「この後10時前に家に着くには、ノンストップで行くからトイレに寄っておいた方がいい。」

夕食を食べ終え、俺の腕を頼りに土産売り場を見て回る彼女にそう伝えると、

「じゃあ、お手洗いに寄って来ます。」
親への土産だろうか…いくつか買い終えた彼女は、そう言って、サッと俺の腕から手を離し離れて行ってしまう。

そのことに少しの寂しさを覚え、俺はつい遠ざかる後ろ姿を見守ってしまった。