君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜


カンカンカンカン…

踏み切りの遮断機音が、薄暗い夕方の騒音をかき消していく。

ワイワイと帰宅する女子高生達の笑い声が、まるで自分を失笑しているかの様に聞こえてしまうほど、千紗の精神は蝕まれていた。

このまま死んでしまえたら…どんなに楽になるだろうか…。

ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン…

もう既に、ここに来てから何本目かの電車を見送っていた。
次こそは…と、千紗は深呼吸をして両手をぎゅっと握り締める。

朝からどんよりしていた空は、ついにポツリポツリと雨が降り始めた。

遮断機の音が止み、スーッと音も無くバーが上がった途端、家路に急ぐ人々の波がザワザワとさざ波の様に動き出す。

千紗は1人ハーッと深く息を吐き、降り出した雨の中、濡れていく制服には気にも留めずゆっくりと歩き出す。

松原 千紗(まつばら ちさ)16歳になったばかり。

女子校に通う高校1年生。
ついこの間まではなんの変哲も無い、ごく普通の女子高生だった筈だ。

みんなと同じように勉強して、大学に入って就職して、いつかは結婚して母になり…幸せで満たされた人生を送る筈だった。

…神様は不公平だ。
私ばかりに不幸が降り注ぐ。 

千紗は世の中の全ての不幸を背負ったような気持ちに陥っていた。
昨日、母と訪れた国立病院で告げられた病名は、円錐角膜症。
なんでも徐々に視力が落ちて最悪の場合失目するらしい…

確かに…ここ一年で急に視力が落ち始め、メガネをかけるようになっていた。

夜、真っ暗な中で何も見えなくて恐怖に襲われたのは、つい先日…
かかり付けの眼科に行けば、直ぐに大きな病院で精密検査をと告げられて、訳も分からないまま数日前に検査入院もした。

入院なんて初めての経験で。学校を堂々と休める事に、少しウキウキした気持ちがあったのは否めない。

そして…昨日、告げられた病名にピンと来ず、母と顔を合わせて首を傾げたのを覚えている。

気が動転した母が、
「えっ…治療したら治るんですよね?この子はまだ高校入学したばかりなんです。一生懸命勉強してやっと入った高校です。卒業出来ますよね!?」
と、的外れな質問をし始める始末だ。

それをまるで遠い世界の事のように、千紗自身はぼんやりと聞いていた。