君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

病院からの帰り道、近くの浜辺に立ち寄る。

車内で2人、千紗は何を話すでもなく、ただずっと膝に治験の書類を抱いていた。

藤堂も何か話しかけるでもなく、彼女の様子を見守っている。

何を思っているのか…
お互いがお互いの事を気にかけ、伺い見る。

せっかくここまで来たのだからと、海辺の駐車場で車を止める。

夕暮れ前の浜辺には人の気配が無い。
初秋の涼しい潮風が千紗の長い髪をなびかせる。それを片手で押さえながら、もう片方の手でスカートを抑える。

藤堂はその姿を見守るように千紗の後に着いて歩く。

波打ち際、千紗が足を止め不意に振り返る。

「藤堂さん…。私、最近なんだか気持ちが上向きなんです。病状は段々と見えなくなっていくなのに、前みたいに死にたいとか思わなくなって…。出来れば見えるうちに見たいものを見ておきたいって、凄くかけがえのない時間を過ごしています。」

「そうか…。希望を持つことも大事だけど、何より今を充実させる事の方が大切なのかもしれないな。」
藤堂も寄り添い千紗に微笑む。

「藤堂さんのおかげです。ありがとうございます。」

「俺は何もしてない。むしろ押し付けがましい事をしたんじゃないかって、自己嫌悪しかない。」
そう言って藤堂はフッと軽く息を吐き捨てる。

「藤堂さんが私の為にしてくれる事は、全て有難い事です。感謝しかありません。」
千紗がそうお礼を言う。

「そう言ってくれるとちょっと報われる。
だけど決定権は千紗にある。ちゃんと考えて結論出してくれたらいいよ。」
藤堂は少し笑って波打ち際にと、千紗の背中を押しながら歩き出す。

強引に引っ張って連れ出す事じゃ無く、俺がすべき事はこうやって寄り添って支えるべきだったんだと、藤堂は自分がすべき立ち位置を今やっと理解出来た気がする。