君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

眼科の診察室に辿り着き、椅子に座って佐久間医師の問診は続く。

視力検査に血液検査、思っていたよりも丁寧に診察してくれた。それだけでここまで来た甲斐があったなと千紗は満足していた。  

だって何の努力もしないまま、その時が来るのを怯えながら待っているよりも、出来る限りの手を尽くしている方が、よっぽど悔いが無い筈だから。

千紗は今出来る全ての検査を終え、病院で唯一の明るい場所である中庭のベンチで、藤堂から手渡された冷たいお茶のペットボトルを飲みながら1人でひと休みしていると、不意に現れた佐久間医師が笑顔で告げる。

「君の今の状態なら、まだ治験中の点眼薬が効くかもしれない。」

その後ろには静かに微笑む藤堂がいた。

「ち、治験ですか?」
その言葉にピンとこない千紗は、思わず佐久間医師に聞き返す。

「あれ?涼君から何も聞かされずに来たの?」
千紗の座るベンチの隣に座りながら、佐久間医師が面白そうに笑う。

「はい…何も聞いてません。」
千紗は目の前に立って影を作っている藤堂を、少し拗ねた顔で睨み付ける。

それを藤堂はフッと鼻で笑って目を背けるが、そんな千紗を内心可愛いなと思っていた。

今日1日一緒にいると千紗の事が良く見えてきた。言葉が少ない彼女だけど、表情が豊かで全ての感情が顔に、瞳に出る事に気付く。

それに気付いた藤堂は、そんな千紗のいろんな顔を見てみたいと、何かにつけてつい揶揄ってしまっていた。

「千紗のお母さんには伝えてある。千紗がやってみたいならお願いしますって返事を貰った。どうする?」
もう、半分決まったようなものだと千紗は不貞腐れる。ここまで来てNOとは言えない。

診察室に戻って新薬の治験についての説明を聞く。既に今年の8月から始まっている治験に、特別参加させてくれるというのだ。それは言うまでもなく佐久間医師の力であり、藤堂の人脈のおかげだ。

ただ新薬はまだまだ未知な物だから、副反応や効き目などはっきりしていない。それでも1月前から始めた治験者の一部は、良い反応が示されているらしい。

自分の身体で実験する。
それはこれからの未来にとってとても大切な役割だ。この薬がもしかしたら同じ病気で悩む人にとって、希望になるかもしれないのだから。

「やらせてください。」
全ての説明を聞いて、千紗ははっきりとそう告げる。

それなのに、ここに来て藤堂がストップをかける。
「今、直ぐ結論を出さなくてもいい。何ヶ月に一回はこっちに来る事になるし、今は周りに推されて気持ちも不安定だ。書類だけ持って帰って1人でじっくり考えてみた方がいいと思う。」

千紗はえっ⁉︎と思う。
彼も母も治験に参加すべきだと、この道を示してくれたのだから、それが今1番ベストな治療なのだというのに。なぜかそれを示した藤堂から遮られ、気持ちが揺れ動く。

「佐久間医師に少し聞きたい事があるから、さっきの中庭で待っていて欲しい。」
藤堂からそう言われて、渋々と重い腰をあげ診察室を出る。