君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

涼の車に乗り込みどこに向かうのかと思ったら、千紗のアパートのある海岸通りの行きつけの洋食レストランだった。

「久しぶりだから嬉しいです。」
千紗は嬉しそうにテンションが上がっている。
手術からずっと来れてなかったから、ゆかさんはどうしているかなと思っていた。手術の事も事前に話していたからきっと心配している筈だ。

いつもの癖で涼は三段ほどある階段を登る為、千紗の手を取り入口へと導く。
「もう、大丈夫ですよ。」
くすっと千紗が可愛く笑うから、

「見えても見えなくても、千紗が階段で躓く不安は消えないんだ。」
さも当たり前だというように、悪戯に笑う涼も嬉しそうだ。

「ホテルの高級レストランより、千紗にとってここが一番いいんじゃないかと思って。」
嬉しそうにはしゃぐ千紗を見て、正解だったと涼も安堵した。
行きつけのレストランだけど、この目に映して見たのは初めてなのだから、イタリアの古民家風の佇まいを見て、こんな可愛らしい門構えだったんだと改めて知る事が出来て嬉しさも倍増していた。

木造の大きな玄関ドアを涼がすかさず開けて千紗を先に通してくれるので、戸惑いながら、
「こんばんは。」
と、恐る恐る店に向かって声をかける。

「いらっしゃい。
千紗ちゃん!退院おめでとう。元気そうでなにより。」
既に大歓迎ムードのゆかが、まだかまだかと待っていたようで嬉しそうに出迎えてくれた。

「ご無沙汰してしまってすいません。手術は無事に成功しました。ゆかさんの顔初めて見る事が出来ます。」
そう報告すると、ゆかが千紗に飛びついて抱きしめる。

「良かったね!ようこそ千紗ちゃん。
如月先生から術後は順調に回復してるって、ご報告はもらってたのよ。でも、本人に会えるまで気が気じゃなくて…本当良かった。」
ゆかは涙ぐみながら嬉しそうに満面の笑顔を向けてくれた。

「本当に如月先生のお陰です。このお店の雰囲気とか始めて目で見る事が出来て感無量です。」
千紗は想像以上に可愛らしさを兼ね備えたお店の雰囲気に感激する。

「良かったわ。気に入ってもらて嬉しい。
さぁさ、今夜は2階の個室にどうぞ。足元、気をつけてね。」

ゆかの誘導について行きながら、可愛らしい螺旋階段にも「うわぁ、可愛い。」と千紗は感嘆の声を上げる。

通されたのは六畳ほどの広さのこぢんまりとした部屋で、テーブルの上にはぽつんとランプが置かれ、落ち着いた雰囲気の場所だった。

少しドキドキしながら、お互い向かい合って座る。千紗は辺りを物珍しそうにキョロキョロと伺っている。

改めて、と言うように涼が、
「今日は特別な日だから。」
と、意味ありげな事を言う。

「特別…ですか?」
千紗はピンともこないから、小首を傾げて涼を見つめる。

「覚えてないかと思うけど、千紗に出会って今日でちょうど9年目だ。」

「えっ⁉︎」
っと千紗は固まり止まる。
出会った…?
ていうとあの、雨の日の学校帰り…自暴自棄になって…衝動的に…踏切に…

あの日の出来事が千紗の脳裏に一気に走馬灯のように蘇る。

既にあの頃から彼の顔をはっきり見る事が出来なかった私の目が、今ははっきりと彼をとらえている。

スッーと通った鼻筋に切れ長の瞳は男らしくクールな印象を与えるが、それでいて薄く引き締まった唇が笑うと少し片側の頬にエクボが浮かぶ。

そんな些細なとこまで見つけられた事に感動してしまう。

いわゆるイケメンという部類に分けられるであろう目の前に座るこの男が、9年間もの月日ずっと私だけを…?と思うと未だに信じられない。

千紗は頭の中でそう本音を呟く。

「どうした?メニュー見ないのか?
今夜は千紗の食べたいものを好きなだけ注文していいよ。コースをお願いしようか迷ったけど、きっと久しぶりだから食べたい物がある筈だろうと思って。」

ずっーと固まったままの千紗を疑問に思ったのか、涼は怪訝な顔で肩肘をついて、じっと千紗を観察している。

「…あっ、はい。」
そんな熱い視線に堪えられなくて、パッと目をそらし、渡されたメニューを心ここにない感じで、ペラペラととりあえず巡ってみる。

そんな千紗の動向を心配したのか、涼が突然、千紗の額に手を当ててくるから、千紗は思わずビクッと体が動く。

「熱でもあるのか?体調不良か?」
心配症が顔を出し、手首まで掴まれ脈まで測られそうになりハッとする。

「だ、大丈夫です。ちょっと…あの…涼さんの事…改めて見るとカッコいいなぁって。思ってしまって…。」
咄嗟の事で、心隠せず露としてしまう。

すると、涼が片手で額を抑えてそっぽを向いてしまうから、その反応がどのような意味を持っているのか分からずに、千紗は慌てて言葉を繋ぐ。

「あの、こんなにはっきりと涼さんの顔を見たのって実は初めてだなと思って…あの頃もぼんやりとしか見えてなかったので…」

「分かった、分かったからもう、何も言わなくていい。」
なぜか焦ったように涼に止められる。

あれっ…?これって照れてるの?

普段はクールで顔色一つ変えない彼が分かりやすく目を泳がす。普段からきっと聴き慣れているだろう褒め言葉に、これほどまでに反応するなんて…と、不思議に思う。

「カッコいいなんて、いつも言われ慣れてますよね?」
千紗は首を傾げて聞いてみる。