君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

冷たくて冷酷な医師だなんて誰が言ったのだろう…。

退院してからの日々は思った以上に涼から溺愛されていると、千紗自身も感じるほどで…。

涼から目のリハビリ期間は在宅ワークをと言われ、千紗の知らない所で既に病院側にも承諾を得ていた。そして、有無を言わさぬままに彼の住む病院近くの高層マンションの一角が千紗の仕事場となった。

そこには病院のオペレーター室と同様な機材が持ち込まれ、今までとなんら変わらない仕事をこなす事が出来た。

もちろん、仕事が終わっても千紗の住む海沿いのアパートに帰る事を心配した涼によって、いつの間にか一緒に住む形になっていった。
この高層マンションから病院は目と鼻の先にあり、昼休みの合間を縫って涼が帰って来ては千紗と一緒に昼食をとる日々だ。

ここに来て1週間。
千紗はそんな過保護な如月に戸惑いながら、それでも快適な毎日を送っていた。

「ただいま。
千紗の好きなメロンパン屋が来てたから買って来たよ。」
ガチャっという玄関ドアの音と共に、涼がリビングに飛び込んで来る。

「おかえりなさい。
今日は早かったですね。メロンパンありがとうございます。」
キッチンで昼食の準備をしていた千紗が振り返ると、対面カウンターを挟んで直ぐ目の前まで来ていた涼を、驚きながらも笑顔で迎える。

そんな涼がカウンターから乗り出して、当たり前だと言うふうに千紗の頬にリップ音を立ててキスをする。

えっ!?っと驚き固まる千紗に、満面の笑みとメロンパンの紙袋を残し、
「手を洗ってくる。」
と一言言って、急いで洗面所に向かっていった。数秒遅れで頬を真っ赤に染めた千紗はその場にうずくまる。

甘い…甘すぎる。
医師としてのクールな一面を知っている千紗にとって、1週間経っても未だに慣れない甘さ加減につい身悶えてしまう。

「どうした⁈立ちくらみか⁉︎」
洗面所から戻ってきた涼がしゃがみ込む千紗をめざとく見つけて駆け寄って来る。

「だ、大丈夫です…」
千紗は真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、ふいっと何事もなかったかのように配膳の支度を始めるのだが、涼によって軽々と横抱きに抱き上げられ、有無を言わさず近くのソファへと運ばれる。

「だ、大丈夫ですから。」
千紗は慌てバタバタとするのだが、

「落ち着くまで横になっていた方が良い。後は皿に盛り付ければいいのか?」
そっとソファに寝かすように下ろし、千紗の顔色を伺いながら頬をさらっと撫ぜてくる。

「本当に、ちょっとびっくりしただけで…。」
千紗は赤くなってるであろう自分の顔が恥ずかしくて、目を泳がせて涼の手から逃れようと試みる。
そんな千紗の頬を大きな両手で包み込み、容赦なく固定して少し強引に目線を合わせてくる。

「目が痛む?乾燥するとかは?」
真剣な顔で瞬時に確認してくる彼は、一瞬で医者モードに変わる。
「だ、大丈夫…」
ただただ恥ずかしいだけの千紗は、鼓動を高鳴らせて今だに慣れない至近距離にドギマギしていた。

一通り問診をして安心したのか涼が、フッと笑顔を見せる。かと思えば、突然チュッと唇を奪う。

固まり反応出来ない千砂を尻目に、立て続けに何度も啄むようなキスが続く。
千紗はなすがままに息を乱しながら、その甘い誘惑に落ちていく…

「…あっ…待っ…て…」
涼の熱に侵されて千紗は段々と理性が保てなくなっていく。頭がぼうっと霧がかかったようになっていく自分自身に、少し怖くなってストップをかける。

それでもソファに押し倒す勢いで口付けが深くなっていくから、息苦しさにさすがに千紗も涼の腕を推して止める。

そこでやっと理性を取り戻した涼が、熱くなった熱を下げるようにフーッと息を深く吐き、千紗との距離をとる。

お互いの濡れた唇に、熱を持って潤んだ瞳に、吸い寄せられそうになりながら、如月はコツンと額を千紗の額にあてて「ごめん…やり過ぎた…」と小さく呟く。

急にシュンとしてしまう如月がなんだか可愛くて、子供をあやすようにフワッと抱きしめた。

「…先生。ご飯が冷めてしまいますから、先にちゃんと食べましょ。」
ワザと先生と呼び、頭をヨシヨシと撫ぜてみる。

「…俺を、犬か何かだと思っていないか…」
如月は苦笑いしつつもされるがままになっている。
このところ、千紗を前にすると愛しさが込み上げてきて、雄の本能が衝動的に湧き上がり欲を抑える事が出来ず、発情期の猛獣のようだと如月自身も自覚はしている。

ずっと思い続けていた千紗が目の前にいて、いつでも触れられる権利を得た今、全て自分だけのものにしたいと気持ちが急く。
だけど…初心な千紗を怖がらせたくない。その一心で如月はどうにか思いとどまっている状態だった。

「腹が減った、早く食べよう。」
熱をなんとか抑え込んだ如月が、千紗身体をそっと起こして乱れた髪を手櫛で優しく直してくれる。

「俺が準備するからここで待ってて。」
サッと立ち上がり、キッチンに向かって行く如月の後ろ姿をまだ熱が冷めやらない千紗はぼうっと見つめていた。

少し遅れて千紗がキッチンに戻ってみれば、如月は何ごともなかったかのように、いつもの感じに戻っていた。