(涼side)
念願ともいえるほど、この手術が俺の目標であり全てだった。
彼女に出会いその透き通った心に惹かれ、今はただ彼女の幸せを誰よりも願っている。夢にまで観たその未来が今目の前にある。
手が震える…
いつになく緊張している事に気付く。
そんな事は日本に帰ってから一度もなかったのに…
いざ、この手で彼女の目にメスを入れると思うと、どうしようもなく手が震えた。
大丈夫だ。今までどれだけ手術に挑んできたんだ?この日の為にどれだけ努力してきた?自分自身に問いかける。彼女が視力を取り戻した時、きっとこれまでで1番の笑顔を見る事が出来るはずだ。
今朝の問診時に、彼女からこっそり手紙を渡された。初めてもらうラブレターに、大人気なく心が躍った。
りょうさんへから始まる内容は、目の見えない彼女が手探りで書いた貴重なもので、それだけでも有難い大切なものとなった。
『あなたに出会えて良かった。それだけで私は幸せです。この先も何があったとしても一緒に隣りで笑っていたい。それが私の唯一の願いです。どうか、私との事があなたの負担になりませんように。』
愛の言葉は一切ないが、それでも彼女の心が俺のそばにある事を感じとれて嬉しくて、それと同時にホッとした。
その手紙をお守りのように胸の内ポケットに潜ませる。
あの日、渡米のため最後に2人で行った浜辺で見た、彼女の精一杯の笑顔が脳裏に浮かんでくる。
夕日に照らされ眩しくて…
あの時、内心泣かれたらどうしようかと、行かないでと縋り付かれたらどうしようかと…そんな事ばかりを思っていたから、笑顔で送り出されるとは思いもしなかった。
俺は彼女にとって大した存在では無いんだ…と、酷くガッカリしたのと同時に、どうしようもなく俺自身が彼女を恋しく離れ難いと思っている事を実感した。
あの時、あの瞬間、泣きたいのは俺の方だった…
もし、あの時、彼女に泣かれでもしたら、きっと渡米を取り止めていたかもしれない。
それほどまでに俺の中では彼女の存在が大きくなっていて、その思いがあったからこそ今、ここに至る。
大きく息を吐きゆっくりと深く吐く、それを数回繰り返していると心がスーッとフラットになっていく。
やるべき事はやって来たはずだ。
大丈夫だ、自信を持て。自分にそう言い聞かせる。
手の震えが止まった。
目を閉じて、しばしイメージトレーニングをする。いける。
いつものルーティーンに入れば思いの外肝が座る。
手を丁寧に洗い消毒をして手袋を装着する。
「如月先生、本日はよろしくお願いします。」
助手で入る研修医の声を聞き、見が引き締まる。
「よろしくお願いします。では、行きます。」
言葉少なにオペレーションスタッフを見渡し、手術室に一歩、また一歩と近づく。
ウィーンと機械音が冷たく薄暗い廊下に鳴り響き、自動扉が開いた。
いざ、挑まん。
固い決意を決め、助手に目を向け深く頷く。
そして、冷たい手術台の上に横になる彼女に目を向ける。
そこだけが、神々しいほどに輝いて見えた。
ここからは神聖な神のみぞ知る領域だ。
敬意を持って尊き領域にいざ、一歩と踏み込む。
緑色の布に覆われて顔だけがかろうじて見える。一瞬怯える俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女は終始目を閉じたまま。
気持ちを整え、バイタルをチェックをして、先に入っていたスタッフに挨拶をする。
そしていつものように淡々と、患者である千紗に挨拶をしてスタッフメンバーの紹介をする。
そのタイミングで千紗の手が小刻みに震えているのに気付く。
…誰にも気付れないように、そっと彼女の手を握る。ぎゅっと力を少し込めれば、それに応えるかのようにぎゅっと握り返してくれた。
全身麻酔が効き始める瞬間まで、握り返された手の温もりが俺の心を温めた。
念願ともいえるほど、この手術が俺の目標であり全てだった。
彼女に出会いその透き通った心に惹かれ、今はただ彼女の幸せを誰よりも願っている。夢にまで観たその未来が今目の前にある。
手が震える…
いつになく緊張している事に気付く。
そんな事は日本に帰ってから一度もなかったのに…
いざ、この手で彼女の目にメスを入れると思うと、どうしようもなく手が震えた。
大丈夫だ。今までどれだけ手術に挑んできたんだ?この日の為にどれだけ努力してきた?自分自身に問いかける。彼女が視力を取り戻した時、きっとこれまでで1番の笑顔を見る事が出来るはずだ。
今朝の問診時に、彼女からこっそり手紙を渡された。初めてもらうラブレターに、大人気なく心が躍った。
りょうさんへから始まる内容は、目の見えない彼女が手探りで書いた貴重なもので、それだけでも有難い大切なものとなった。
『あなたに出会えて良かった。それだけで私は幸せです。この先も何があったとしても一緒に隣りで笑っていたい。それが私の唯一の願いです。どうか、私との事があなたの負担になりませんように。』
愛の言葉は一切ないが、それでも彼女の心が俺のそばにある事を感じとれて嬉しくて、それと同時にホッとした。
その手紙をお守りのように胸の内ポケットに潜ませる。
あの日、渡米のため最後に2人で行った浜辺で見た、彼女の精一杯の笑顔が脳裏に浮かんでくる。
夕日に照らされ眩しくて…
あの時、内心泣かれたらどうしようかと、行かないでと縋り付かれたらどうしようかと…そんな事ばかりを思っていたから、笑顔で送り出されるとは思いもしなかった。
俺は彼女にとって大した存在では無いんだ…と、酷くガッカリしたのと同時に、どうしようもなく俺自身が彼女を恋しく離れ難いと思っている事を実感した。
あの時、あの瞬間、泣きたいのは俺の方だった…
もし、あの時、彼女に泣かれでもしたら、きっと渡米を取り止めていたかもしれない。
それほどまでに俺の中では彼女の存在が大きくなっていて、その思いがあったからこそ今、ここに至る。
大きく息を吐きゆっくりと深く吐く、それを数回繰り返していると心がスーッとフラットになっていく。
やるべき事はやって来たはずだ。
大丈夫だ、自信を持て。自分にそう言い聞かせる。
手の震えが止まった。
目を閉じて、しばしイメージトレーニングをする。いける。
いつものルーティーンに入れば思いの外肝が座る。
手を丁寧に洗い消毒をして手袋を装着する。
「如月先生、本日はよろしくお願いします。」
助手で入る研修医の声を聞き、見が引き締まる。
「よろしくお願いします。では、行きます。」
言葉少なにオペレーションスタッフを見渡し、手術室に一歩、また一歩と近づく。
ウィーンと機械音が冷たく薄暗い廊下に鳴り響き、自動扉が開いた。
いざ、挑まん。
固い決意を決め、助手に目を向け深く頷く。
そして、冷たい手術台の上に横になる彼女に目を向ける。
そこだけが、神々しいほどに輝いて見えた。
ここからは神聖な神のみぞ知る領域だ。
敬意を持って尊き領域にいざ、一歩と踏み込む。
緑色の布に覆われて顔だけがかろうじて見える。一瞬怯える俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女は終始目を閉じたまま。
気持ちを整え、バイタルをチェックをして、先に入っていたスタッフに挨拶をする。
そしていつものように淡々と、患者である千紗に挨拶をしてスタッフメンバーの紹介をする。
そのタイミングで千紗の手が小刻みに震えているのに気付く。
…誰にも気付れないように、そっと彼女の手を握る。ぎゅっと力を少し込めれば、それに応えるかのようにぎゅっと握り返してくれた。
全身麻酔が効き始める瞬間まで、握り返された手の温もりが俺の心を温めた。



