君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

「……松原さん…起きてください…」
遠くで誰かが私を呼んでいる…
この声は…りょうさん…?

起きたいけど起きられない…瞼が重くて目が開かない…

私は浮上していく意識の中で、夢と現実を彷徨っていた。

ここはどこだろう…
身体が鉛のように重くて動かない。
寝起きのような起きなきゃいけないのに起きたくない、もどかしい状態が続く。

「…千紗! 千紗!!…」
誰かが私を呼ぶ声がする…懐かしい…
強く心に響く低い声…

この声は誰…?

「…千紗、頼むから目を開けてくれ!」
悲痛に張り裂けそうな声が先程より大きく聞こえてくる。

私は…どうしたのだろう?

まるで身体が自分のモノではないような感覚に戸惑い、もがくように手指をなんとか動かしてみる。

すると、ぎゅっと大きな手に包まれる。
暖かい…誰…?
力強いその手に導かれるように、まだ夢から覚めない夢うつの中…。

早く起きなくちゃいけない…彼を悲しませる訳にいかないから…

必死でもがき上へ上へと浮上する。
それはまるで深く暗い海の底から這い上がるような感覚…

ただ、彼の声だけが道しるべのよう。

「千紗…⁉︎分かるか?俺だ!」
重たい瞼を何とか開こうと試みる。
眩しい…チカチカして…よく見えない…。

「りょう…さん…」
と、何とか言葉を絞り出す。

すると、フーッと安堵とも取れるような深いため息が聞こえ、ぎゅっと手を握り返してくれた。
「良かった…」
と、呟くような声…

私もホッとして、また意識が遠のきそうになる。
「寝るな…頑張って抗ってくれ。」

「千紗…君は手術が終わってから6時間も眠り続けていたんだ。一時はどうなるかと思った…本当に良かった…。」
ぎゅっと握られた両手からどれだけ心配させてしまったのかが伝わってきた。

「千紗…大丈夫⁉︎ママよ!手術するって聞いて居ても立っても居られなくて、こっそり手術の日に病院に来たんだけど、こんな事になるなんて…目覚めてくれて本当に良かった…。」
うぅぅぅ…っと声を殺して泣き出す母の声…

「ごめんなさい…心配かけて…」
声が上手く出せなくて…ちゃんと伝わったのか分からない…けれど、ヨシヨシと頭を撫ぜられる感触で安堵する。

それぞれの感情をどうにか落ち着かせて数十分後…

りょうさんも本来の医師の姿に戻り、
「これから3日間は目を開けれないので注意をしてください。照明の灯りも刺激になるのでしばらくは薄暗い中の生活になります。」
淡々と術後の話しを語り始めた。

頭の半分は未だ睡魔に襲われる状態だから、私は上手く返答も出来ず、ただこくんと首を少し動かす程度が精一杯だった。

「しばらくいろいろな機械を取り付けてありますので、後1時間ほどは安静にしてください。」

りょうさんが如月先生のままの態度が少し寂しいと思いつつ、
「…如月先生…ありがとう…ございました。」
それだけ伝えるのがやっとだった…

その後病室に移されたが、頭がぼぉーとしてしまい、母とちゃんと話しをする事も出来なかった。
明日は仕事があるからと帰っていく母に、『来てくれて、ありがとう』と伝えるのが精一杯だった。