君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

次の日、予定通りの時間に看護師さんが迎えに来てくれた。
心は凪のように穏やかだ。

手術室の前まで来ると、
「千紗ちゃん、おはよう。」
と、いつも元気な佐久間先生の声が聞こえる。

「おはようございます。わざわざ出向いてくれたんですか?」
嬉しさの余り手探りでかけ寄る。

「元気そうでなにより。」 
朗らかな笑い声と共にポンポンと頭を撫ぜられ、なんだか恥ずかしくなる。

「昨夜は素敵な夕食を用意して頂きありがとうございました。とても美味しく頂きました。」

「仏頂面なアイツもちゃんと来たか?」
りょうさんの事もきっと心配して、粋な計らいをしてくれたんだと確信する。

「お腹が空いてたらしくて嬉しそうに食べられてましたよ。」
そう伝えると、ハッハッハッと高笑いして満足そうに、
「千紗ちゃんの前ではやけに素直じゃないか。」
と嬉しそうにそう言った。

「アイツの腕は確かだから心配しないで。この為にここまで努力を重ねて来たような奴だから。」
手術室のドアを開く音がして、佐久間先生に優しく背中を押される。

「はい…行ってきます。」
言いたい言葉も上手く見つからず、ただそれだけを告げて歩き出す。

不思議と気持ちは落ち着いていた。
手術台まで誰かの誘導で導かれて、言われるままに台に横になる。  

名前の確認に始まり、今朝の体調についてあらゆる質問をされ、やっと手術台に横になる。
ウィーンという機械音と同時に台が動き頭の方が高くなる。台というよりは椅子みたいだなと頭の片隅でどうでもよい事を思い、深く深呼吸する。

その後、麻酔師からの説明と注意事項があり、そこでやっといよいよだと鼓動がドクドクと速くなってくる。

身体中に全身麻酔の為のいろいろな機械を取り付けられて身動き取れなくなる。緊張がピークになってくる。

しばらく看護師達の計器チェックの声が続く、緊張しながらそのやり取りを聞いていると、どこからかコツコツと足音が聞こえてきて、私の直ぐ横で止まる。

パッと眩しい光を当てられ思わずぎゅっと両手を握り締めた。

「出頭医の如月です。本日はよろしくお願いします。助手は斉藤医師、看護師は村上、神谷です。」

「よろしくお願いします。」
それぞれのスタッフから挨拶される。

「よろしく、お願いします。」
緊張のせいか声が少し震えてしまった。
不意に緊張で冷たくなった私の手を温かい感触が包み込む。
えっ…⁉︎と、思わずドキッと心が揺れる。

りょうさん…⁉︎
もちろんこんな事する人なんて彼以外いないけど…
こんなにもいろいろな人がいる手術室で、彼は何食わぬ顔をして私の手を握ったの⁉︎

患者と担当医、表向きそれだけの関係なのだから気付かれてはいけない筈なのに…。

どういう顔をしていいか分からなくなってぎゅっと目をつぶる。緊張よりもハラハラ感が上回って、さっきとは別の意味で心拍数が上がってしまう。

「如月先生?指示をお願いします。」
少しの沈黙の後、痺れを切らした助手の斉藤医師から声が上がる。

「ああ…では、今から角膜移植手術を始めます。麻酔が入りますのでリラックスして下さい。」
りょうさんの声で私も我に変える。
ああ、手術が始まるんだった…

それから麻酔科の先生の指示に従い深い呼吸を繰り返す。
そこからはスーッと何かに吸い込まれるように意識が途絶えた…