君の瞳にこの愛を捧ぐ〜凄腕眼科医の執着愛〜

点滴が残り半分くらいになった頃、トントントンと静かに扉を叩く音がした。ぼぉーと微睡む私は返事をするのに若干遅れる。

「失礼します。」
低く響く声が聞こえ、それだけでドキンと心臓が跳ねる。

「は、はい…。」
咄嗟に小さく返事をするけれど、それとほぼ同時に扉が開く音がする。

「仕事が立て込んでいて遅くなってすいません。」
そう言いながら近付いて来る足音に、私の心臓は勝手にドキドキと高鳴ってしまう。

「松原さん、体調はどうですか?昨夜は睡眠はちゃんと取れましたか?」
りょうさんが先生として一線を引く為に、敬語で話しかけてくる。そんな小さな心配りにさえズキンと心が痛む。

まるで、ついこの間までの2人の関係は夢だったんじゃないかと思うほどで…

「大丈夫です、問題ありません。」
それだけ言うのがやっとで、どうしても俯き気味になってしまう。

「点滴は問題ありませんか?痛いとか少しでも違和感があったら教えて下さい。入院中ずっと針は付けたままになりますから。」
そう言いながら、ふいに腕に触れてくるからビクッと勝手に身体が反応してしまう。

彼はただ医者として接しているのだから、過剰反応してはダメだと焦る自分に言い聞かせる。

それから少しの沈黙が続き空気が重たくなっていくのを感じる。何か気の利いた会話でもしなくちゃと頭の中は焦り出す。
いよいよ沈黙に耐えられ無くなってきた頃、突然バサッと白衣を脱ぐ音がして、えっ⁉︎っと驚き思わず顔を上げる。

「千紗、少しだけ…言い訳させて欲しい。
この部屋の事、特別扱いだと不服に思っているんじゃないかと思って。この部屋は理事長が手配したんだ。決して俺じゃない…だけど止める事は出来なかった。理事長としては娘の事で迷惑をかけた罪滅ぼしだそうだ。」

ガチャンとパイプ椅子を取り出してベッドの側に座った気配を感じる。

「そう、だったんですね…
貴重なお部屋をご用意して頂きありがとうございます。と、お伝え下さい。」
私も言葉を選びながらお礼を伝える。

「…一患者として接して欲しいと言う君の望みを叶えてやりたいが…
ごめん。2人の時だけでも今まで通りではダメか?流石に…堪える。」
如月先生がそう呟くように訴えてくる。

「…でも、それだとりょうさんに甘えちゃいそうで…。」
私だって本当はりょうさんに甘えたい。弱音だっていいたいし、励まして欲しい。心の中で葛藤する。

「じゃあ、今だけ…今だけでいいから抱きしめさせて。俺は千紗が足りなくて…これ以上耐えられない。」
言葉とほぼ同時にぎゅっと抱きしめられる。

(…私も、寂しかった…。)
心の中でそう答える。
自分から言った手前意固地になっていたけど…今だけは素直になろうと大きな背中に手を回しそっと抱きついた。