車を停めて外のベンチでお弁当を広げる。
季節も秋に近づき、朝の風は少し肌寒さを感じる。千紗が身震いすると、藤堂はすかさず上着を脱いで肩にかけてくれた。
「あ、ありがとうございます。…でも、これじゃ藤堂さんが風邪ひいちゃう。」
慌てて脱ごうとする千紗の手をさりげなく止め、代わりに温かいミルクティーを渡されて驚く。
「大丈夫。俺、暑がりだからちょっと肌寒いくらいが丁度いい。」
何事もないようにサラッとこういう事が出来てしまう藤堂の、恋愛偏差値の高さに戸惑う。
まるで彼女のような扱いだ。今まで彼氏なんていた事のない千紗は、どう答えていいのか分からずドギマギしてしまう。
こんな紳士的な優しさをさりげなくこなしてしまうんだから、さぞオモテになるんだろうな…。千紗は諦めの気持ちでため息を吐く。
諦め…って何考えてるの私…。
藤堂さんとの間にそんな淡い思いなんて生まれる訳がない。思い違いも甚だしい、気持ちに流されないようにしっかりしなくっちゃ。
千紗は自分にそう言い聞かせる。
始めて出会った時の、突き放した様な物言いは、やはり千紗を鼓舞する為の演技だったんだと、妙にホッとした。
「おにぎりは私も一緒に握ったんですよ。おかかに梅に…鮭があります。どれがいいですか?」
千紗はあえてトーンを上げて話し出す。
「じゃあ、おかかで。
どれも美味そう。家庭料理なんて久しぶりだな。」
と、藤堂も嬉しそうだ。
2人でいただきますをして、お弁当を頬張る。
「千紗も料理は得意なのか?」
藤堂の何気ない会話に、千紗はどう答えようかと一呼吸おく。
「もう少し目が見えていた時は、自分用のお弁当を毎日作っていたんですけど、今は危ないからってやらせてもらえなくて。」
寂しそうな笑顔と共にそう言う千紗を見て、
「ごめん…配慮に欠けていた。」
と、藤堂が言葉を濁らす。
「いいんです、気にしないでください。もう、いろいろな事は諦めてるので。」
千紗は場の空気を汚したくなくて、慌てて両手を振って出来るだけ明るく振る舞う。
今も机越しに座る藤堂の顔は、メガネをかけたところで朧げだ。外にいると太陽の明るさだけを感じ過ぎてしまい世界の全てが白く見えて眩しい。
よほど目を凝らしていたのか、藤堂が見兼ねて自分が被っていたキャップを千紗にポンと、被らせてくれた。
そのおかげで、先程よりも藤堂の整った顔が見えるようになる。もうそろそろこの貴重な笑顔も見えなくなってしまうだろう。
どんなに頑張っても、病状はゆっくりと進んでしまう。もしかしたら彼の姿を見れるのも、今日が最後かも知れない…。
そう思うと千紗はつい熱心に藤堂の表情一つ一つを見逃さないように、見入ってしまっていた。
「そんなに見られると、さすがに食べ辛いんだけど。」
藤堂が照れたように苦笑いする。
「ごめんなさい…。これで藤堂さんを見るのも最後かもしれないと思って、つい。」
千紗が軽い感じで笑って言うと、
「縁起でもない、やめてくれ。」
と、藤堂がしかめっ面を見せる。
「この頃はそう思う事が増えて、1日1日がとても大切に思えてきます。だから、今日は連れ出してくれてありがとうございます。」
ペコリとお辞儀をする千紗に、藤堂は言葉に詰まってしまう。
「…あれから、千紗の病気について詳しく調べた。完治が難しい難病だって事も…。だけど、今日はたくさん笑ってくれるから俺の心が報われる。」
藤堂は寂しそうに微笑む。
お互いちゃんと分かっている。どんな名医に診てもらおうと、この病気を治す事が難しいのは…。
季節も秋に近づき、朝の風は少し肌寒さを感じる。千紗が身震いすると、藤堂はすかさず上着を脱いで肩にかけてくれた。
「あ、ありがとうございます。…でも、これじゃ藤堂さんが風邪ひいちゃう。」
慌てて脱ごうとする千紗の手をさりげなく止め、代わりに温かいミルクティーを渡されて驚く。
「大丈夫。俺、暑がりだからちょっと肌寒いくらいが丁度いい。」
何事もないようにサラッとこういう事が出来てしまう藤堂の、恋愛偏差値の高さに戸惑う。
まるで彼女のような扱いだ。今まで彼氏なんていた事のない千紗は、どう答えていいのか分からずドギマギしてしまう。
こんな紳士的な優しさをさりげなくこなしてしまうんだから、さぞオモテになるんだろうな…。千紗は諦めの気持ちでため息を吐く。
諦め…って何考えてるの私…。
藤堂さんとの間にそんな淡い思いなんて生まれる訳がない。思い違いも甚だしい、気持ちに流されないようにしっかりしなくっちゃ。
千紗は自分にそう言い聞かせる。
始めて出会った時の、突き放した様な物言いは、やはり千紗を鼓舞する為の演技だったんだと、妙にホッとした。
「おにぎりは私も一緒に握ったんですよ。おかかに梅に…鮭があります。どれがいいですか?」
千紗はあえてトーンを上げて話し出す。
「じゃあ、おかかで。
どれも美味そう。家庭料理なんて久しぶりだな。」
と、藤堂も嬉しそうだ。
2人でいただきますをして、お弁当を頬張る。
「千紗も料理は得意なのか?」
藤堂の何気ない会話に、千紗はどう答えようかと一呼吸おく。
「もう少し目が見えていた時は、自分用のお弁当を毎日作っていたんですけど、今は危ないからってやらせてもらえなくて。」
寂しそうな笑顔と共にそう言う千紗を見て、
「ごめん…配慮に欠けていた。」
と、藤堂が言葉を濁らす。
「いいんです、気にしないでください。もう、いろいろな事は諦めてるので。」
千紗は場の空気を汚したくなくて、慌てて両手を振って出来るだけ明るく振る舞う。
今も机越しに座る藤堂の顔は、メガネをかけたところで朧げだ。外にいると太陽の明るさだけを感じ過ぎてしまい世界の全てが白く見えて眩しい。
よほど目を凝らしていたのか、藤堂が見兼ねて自分が被っていたキャップを千紗にポンと、被らせてくれた。
そのおかげで、先程よりも藤堂の整った顔が見えるようになる。もうそろそろこの貴重な笑顔も見えなくなってしまうだろう。
どんなに頑張っても、病状はゆっくりと進んでしまう。もしかしたら彼の姿を見れるのも、今日が最後かも知れない…。
そう思うと千紗はつい熱心に藤堂の表情一つ一つを見逃さないように、見入ってしまっていた。
「そんなに見られると、さすがに食べ辛いんだけど。」
藤堂が照れたように苦笑いする。
「ごめんなさい…。これで藤堂さんを見るのも最後かもしれないと思って、つい。」
千紗が軽い感じで笑って言うと、
「縁起でもない、やめてくれ。」
と、藤堂がしかめっ面を見せる。
「この頃はそう思う事が増えて、1日1日がとても大切に思えてきます。だから、今日は連れ出してくれてありがとうございます。」
ペコリとお辞儀をする千紗に、藤堂は言葉に詰まってしまう。
「…あれから、千紗の病気について詳しく調べた。完治が難しい難病だって事も…。だけど、今日はたくさん笑ってくれるから俺の心が報われる。」
藤堂は寂しそうに微笑む。
お互いちゃんと分かっている。どんな名医に診てもらおうと、この病気を治す事が難しいのは…。



